研究プロジェクト


テキストレベル実体を基盤にした概念モデルと書誌レコード作成

 目録のモデリングすなわち対象資料群が構成する書誌的世界・事象のモデリングにおいて、資料の「テキスト」に対応する実体(またはオブジェクト)を「テキストレベル実体」として独立して設定し、それを基盤として選択した概念モデルの提案を行っている。ここでテキストとは、"著作者による知的・芸術的創造行為によって生み出された、文字・数字、楽譜記譜、舞踊記譜、音響、画像、三次元実体、演奏・演技行為等、もしくはそれらの組み合わせ"を指す。

1)まず、既提案のモデル群を検討し、そのいずれもテキストレベル実体を基盤すなわち他の実体よりも優先的な扱いとしていない点を確認した。その例外は、筆者が以前に提案した三層構造モデル等に限定される。

2)テキストレベル実体を基盤とした新たな概念モデルを、主にFRBRモデルとの相違を示すことによって提案した。FRBRモデルとは、IFLA研究グループによる『書誌レコードの機能要件.最終報告』において示されたモデルを指すが、同モデルは他の殆どのモデルさらには現行処理方式と同様、テキストが何らかの媒体に固定された段階を指す実体を基盤にしている。
 提案したモデルは、主に以下の点においてFRBRと相違を示す。
・すべての対象資料に対して、基盤として選択されたテキストレベル実体については、対応する実現値が必ず設けられねばならない。これは、単一実現値が複数の資料に対応する場合をも含んでいる。
・仮に書誌レコードが複数の実体レベルを包含して表現するとしたときには、いずれか一つの実体の単位に依拠して作成されねばならず、それはテキストレベル実体の単位に合致したものとなる。
・対象資料に出現するタイトルや責任表示を、テキストレベル実体の属性に割り当てる。さらには、当該実体の諸特徴を十分に示し、かつそれに係る利用者タスク群の達成を可能とするに十分な属性群および実体間の関連群がテキストレベル実体に設定されなければならない。
・利用者タスクに書誌的実体レベルを組み合わせ、それらの移行(実行)順序を示した利用シナリオを想定したとき、(a)大半の場合にテキストレベルの「発見」タスクから利用が開始され、かつ(b)利用プロセスにおいて、当該実体レベルの「同定」または「選択」タスクが必ず実行される。

3)対象資料が、ある資料の「構成部分」の場合について、提案モデルとFRBRモデルの両者によるモデリング結果を比較した。その結果、FRBRモデルに依拠したときには、構成部分の形態的な独立・非独立に依存してモデリング結果が異なること、それに対して提案モデルではいずれも同一結果をなる点を確認した。

4)上記の提案モデルに依拠した書誌レコード作成の実現可能性を検証するために、(a)可能な書誌レコード作成方式の類型化を行い、(b)その一つの方式「実体レベルごとに独立したレコードを作成し、それらを相互にリンクさせ対象資料を表現する方式」を採用し、それに合致するよう既存の書誌レコードであるUSMARCの変換実験を行った。その結果、変換手順の概要、機械処理可能な部分とそれ以外との判別、各変換ステップにおける可能な選択肢群を明確にすることができた。変換支援プログラムを試作しつつ変換実験を行ったが、プログラムのさらなる高度化の余地が残されている。

5)併せて、変換後の書誌レコードに合致する検索・表示システムを試作した。これにより構造化された書誌レコード群を扱う上で必要なシステム機能を明らかにすると同時に、それらレコード群自体の有効性を部分的ながら示すことができた。

 以上の点により、提案モデルは、format variationsまたはmultiple versions問題と呼ばれる、同一テキストが異なるフォーマットや媒体上に出現する資料群の扱いに関して適切に対処でき、さらにはcontent versus carrier問題と呼ばれるテキストと媒体との区別や対立に一つの解決策をもたらしうると結論づけた。ここには、(a)同モデルが、資料の知的・芸術的側面に属するテキスト(さらには著作)およびテキスト間の関係に対して詳細な情報を提供しうる堅固な基盤となりえること、(b)同モデルに沿った書誌レコードにより、利用者は構成部分を含め資料に対して一貫性のある、かつ理解容易な方式でアクセスできることが含意されている。