hellog〜英語史ブログ

#840. 植物の新種報告が英語でも可に[scientific_name][elf]

2011-08-15

 8月2日付けの asahi.dom で,次の記事を見つけた.

植物の新種報告、英語でも可 ラテン語の壁崩し規約改訂
 76年間、ラテン語に限られていた植物の新種の発見報告が英語でもできるようになった。オーストラリア・メルボルンで開かれた国際植物学会議が30日、規約を改訂した。また、報告は紙媒体だけでなく、電子出版の論文も認めることにした。
 植物学では1935年に国際ルールができ、新種の報告は「ラテン語のみ」で、紙媒体に掲載されたものに限ってきた。今回の改訂で論文の発表が加速され、検索も容易になると期待される。
 命名規約委員会委員長のサンドラ・ナップ博士(英国自然史博物館)は「植物科学にとって大きな一歩。大量絶滅に直面している今、新種がいち早く登録され、探しやすくなるのは保全活動に大いに役立つはずだ」と談話を発表した。


 2005年のウィーン会議で改正された国際植物命名規約 (ICBN) の第36条によれば,非化石植物の新分類群の命名にはラテン語による記載が義務づけられていた.ICBN の改正案は6年に一度開催される国際植物会議で議決されるが,今回のメルボルン会議(2011年7月23日?30日)では,過去に幾度も提案されては否決されてきた「ラテン語義務の撤廃」がついに議決された.XVIII International Botanical Congress に掲載されている Congress Resolutions で,正式な報告がなされている.以下,関連する部分を転載(赤字は引用者).

Resolution 5
   The XVIII International Botanical Congress, in Melbourne, Australia, resolves that the decisions of its Nomenclature Section with respect to the International Code of Botanical Nomenclature (now to be the International Code of Nomenclature for algae, fungi, and plants), noting with interest that specified types of electronic publication are now effective for nomenclatural purposes, that descriptions of new taxa may now appear in English or Latin, that, for valid publication, new names of fungi must include citation of an identifier issued by a recognized repository that will register the name, and that the Code will henceforth provide for a single name for all fungi and for all fossils falling under its provisions, as well as the appointment of officers and members of the nomenclature committees, made by that section during its meetings on 18-22 July, be accepted.


 門外漢なので植物学と分類群の命名の慣例については詳しく知らないが,今回の議決は,現代世界におけるラテン語の役割の大幅な衰退を明示する事例だろう.ラテン語擁護派は,植物学の古典がラテン語で書かれていること,ラテン語の厳格なフォーマットゆえに安直な新分類群記載が避けられること,ラテン語が安定的な言語であること,などを理由に挙げているが,これらの理由では押し切れないほどにラテン語の役割が減じてきたということだろう.また,この議決は英語がかつてのラテン語と同等の機能を担うようになってきている証拠でもある.
 ラテン語にしても英語にしても,恒久的に安定的な言語というものが存在し得るのかどうかは疑わしい.たとえある言語に厳格な規範が定められたとしても,規範自体が時とともに変化することはあり得る.また,その言語が威信を保ち続けられるかどうかは社会の要求に依存するが,社会の要求とは時代とともに変わるものである.社会的機能において英語がかつてのラテン語に取って代わってきているということは間違いないだろうが,英語が今後,かつてのラテン語を超えて恒久的に安定的な言語となるだろうという予測は議論の余地があろう.
 関連して,学名 (scientific name) について,[2010-09-21-1]の記事「学名」を参照.

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