hellog〜英語史ブログ

#20. 接尾辞-dom をもつ名詞[etymology][suffix]

2009-05-18

 [2009-05-14-1][2009-05-12-1]の接尾辞-th の話題に引き続き,今回は-dom の話題.先日の授業で,古英語の語形成の一方法として派生( derivation )を解説した. wisdomwise + dom だと一つ例を挙げたが,他の例がすぐに挙がらなかった.情けないことである.後で例を挙げてくれた学生もいたので,今日は反省しつつ,接尾辞-dom について知識をまとめておきたい.
 -dom は名詞・形容詞について新しい名詞を作る接尾辞で,二つの意味がある.

 (1) 〜たる地位(位階),〜権,〜の勢力範囲,〜領,〜界: cuckoldom 「不貞な妻をもった夫の身分」, Christendom 「キリスト教世界」, dukedom 「公爵の爵位」, earldom 「伯爵の爵位」, kingdom 「王国」, martyrdom 「殉教」, popedom 「教皇職」, sheriffdom 「シェリフ職」
 (2) 状態: boredom 「退屈」, freedom 「自由」, wisdom 「知恵」, thraldom 「隷属状態」
 (3) 集団,または(その集団社会の)流儀,気質など(しばしば軽蔑のニュアンスを伴う): filmdom 「映画界」, officialdom 「官界」, squiredom 「地主階級風」

 この接尾辞は語源的としては doom と同一である(究極的には動詞 do と関係する).もともとは「位置,状態,権力」という意味だった.対応する古英語の dōm は 「法令」「判決」を意味する語として使われたが,後に現在のような「運命」の意味が展開された.-dom は現在でも生きた接尾辞として,臨時語の形成に使われるという.
 日本語で思い出したのは「マンダム」と「ガンダム」である.かつて一世を風靡した流行語「う〜ん、マンダム」は,男性用化粧品を製造・販売する株式会社マンダムの製品CMが出所である.ウェブで調べた限り,「マンダム」は,もともと "man" + "domain" の略だったが,のちに女性化粧品事業へも参入するに伴って "human & freedom" の略へ変わったのだという.機動戦士「ガンダム」のほうは,一説によると "gunboy" + "freedom (fighter)" の省略らしい.
 マンダムもガンダムももちろん和製英語だが,接尾辞-dom の例として再解釈してみると新しい含蓄を楽しめるかもしれない.「男状態を保つ化粧品」とか「銃使いに特有の気質」とか.
 ところで,マンダムもガンダムも男の世界である.おもしろいことに,古英語の dōm は男性名詞だった(-dōm のついた派生語もすべて男性名詞).偶然だろうが,結果として良いネーミングセンスをしていたということになる.う〜ん、マンダム.

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#731. 接尾辞 -dom をもつ名詞の通時的分布[suffix][oed][corpus][productivity]

2011-04-28

 [2009-05-18-1]の記事「接尾辞-dom をもつ名詞」では現代英語で使われる -dom 語をいくつか挙げたが,今回は通時的な観点からこの接尾辞を眺めてみたい.Bauer (220) によると,-dom は一度は瀕死の接尾辞とみなされるほどに衰退していたが,現代英語では一定の生産性を取り戻してきているという.

-dom    This suffix forms abstract, uncountable nouns from concrete, countable ones. For a long time it was thought that the suffix was moribund or totally non-productive, but Wentworth (1941) showed that it had never completely died out, and it is still productive in contemporary English, though not very much so. Recent examples include Dollardom, fagdom, gangsterdom, girldom (all OEDS). (220)


 -dom は原則として名詞の基体に付加して抽象名詞を作るが,freedom のように形容詞の基体に付加する例もある.
 OED で通時的分布を調べてみた.[2011-01-05-1]で紹介した「OED の検索結果から語彙を初出世紀ごとに分類する CGI」を利用して世紀ごとに -dom 語を数え上げ,以下のように視覚化した.Sodom などの雑音も多少は混じっており,ざっと見て気付いたものは削除したが,大雑把な数え上げとして理解されたい.数値データはこのページのHTMLソースを参照.

Diachronic Distribution of -dom Words by OED

 中英語から近代英語にかけてのじわじわとした復活,そして19世紀の爆発は印象的である.20世紀の下火は,現実を反映しているのか,あるいは OED の語彙収集上の事情によるものだろうか.いずれにしても19世紀以降の新 -dom 語彙はすべてが低頻度語で,nonce-word も多い.Frequency Sorter によると,ANC (American National Corpus) で10回以上用いられているものは,fandom, boredom, stardom, fiefdom くらいだ.
 接辞の生産性 (productivity) は理論的に計算するのが難しいとされる (Baayen and Lieber) .-dom の19世紀の爆発は20世紀そして21世紀にどの程度続いているのか,直感的に捉えられる接辞の生産性とは客観的にどのように記述されるのか,生産性の問題にコーパスがどのように活用できるのか.-dom に注目するだけでも,様々な問題が持ち上がってくる.

 ・Bauer, Laurie. English Word-Formation. Cambridge: CUP, 1983.
 ・Baayen, Harald and Rochelle Lieber. "Productivity and English Derivation: A Corpus-Based Study." Linguistics 29 (1991): 801--43.

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#732. -dom は生産的な接尾辞か[suffix][productivity]

2011-04-29

 [2009-05-18-1], [2011-04-28-1]の記事で接尾辞 -dom について紹介したが,昨日の記事[2011-04-28-1]を書いたあとで,引用に含まれていた Wentworth の論文を読んでみた.-dom に的を絞った驚くほど網羅的な研究だった.結論らしい結論はないのだが,-dom の具体例の列挙により事実上この接尾辞の生産性 (productivity) を示した研究といっていいだろう.論文のあらましに近くなるが,以下に要点を書き留めておく.
 まず,Wentworth (280--81) は主に20世紀の言語学者の -dom の生産性に関する言及を数多く収集し,"inactive" とする論者と "active" とする論者の間で意見が完全に割れていることを示す."inactive" とする言及の1例として,1935年の "-dom . . . is to all intents and purposes now dead" が挙げられる,"active" とするものには同年の ". . . still active, that is to say, regarded as easily available for the coining of new compounds . . ." が挙げられる.
 収集した言及の中に,19世紀後半の同時代の軽蔑的な反応が含まれており興味深い (283--84) .

Among the recent vulgarisms that have crept into the press is an abuse of the suffix dom . . . as legitimately used in kingdom, christendom . . . The word, however, does not admit of unlimited extension at the hands either of neologists or of would-be comic writers. 'Officialdom is strong in France . . . '


 次に,Wentworth は,1840年からの100年間で初めて印刷上に現われた262個の -dom 語を列挙する (284--85) .20世紀に入ってからの40年間だけでほぼ半数の132語が列挙されている.これだけを見ても,昨日の OED に基づく通時的分布が,20世紀における -dom の生産性を相当に過小評価しているということが分かる.ただし,Wentworth は特定の著者や特定の年に -dom の新語が現われていることに注意を喚起している.
 英米の著名な作家による -dom 語の使用例を概観した後,Wentworth は1800年以降に現われた約300語の -dom 語の "usage status" について調査する.そのほとんどが "standard" な語であると指摘しており,-dom の生産性を暗に示しているようである (290) .

Of the approximately 300 Modern English words treated in this inquiry, all but a relative few are standard. Many are rich in connotation of empire, of politic organization, of dominion real or fancied. Some are daring, poetic, curious, whimsical. But such traits hardly disqualify the words as standard English, so broad is that concept.


 次に,-dom の語形成上の特徴,-dom 語の強勢の位置が考察される (293--94) .形容詞の基体に接尾辞のついた少数派の例として halidom, bourgeoisdom, carefreedom, topsyturvydom, awaredom, Englishdom, Germandom, ramshackledom が紹介されるが,最も頻度の高い -dom 語が freedomwisdom など形容詞由来であることが指摘される (293) .
 続けて,各 -dom 語が,権威あるいくつかの辞書に見出し語として含められているかどうかを確認する (294) .しかし,ある -dom 語が文証されたことがあるかどうかということは必ずしも生産性の指標とはならないことを示唆し,Jespersen から次の一節を引用しつつ -dom の潜在的な生産性を評価している (295) .

A word may have been used scores of times without finding its way into any dictionary,---and a word may be an excellent one even if it has never been used before by any human being. If at its first appearance it is just as intelligible as if it had been in constant use for centuries, why should the first occurrence be more faulty than the three-thousandth?


 最後に,1800年以降に現われた -dom 語が300個ほどリストアップされる (296--306) .狭い話題を深く追究するという,研究の王道を行く印象的な論文だった.
 分かっていたつもりだが,接辞の生産性の問題はやはりその定義から始めなければならないなと改めて実感した.

 ・ Wentworth, Harold. "The Allegedly Dead Suffix -dom in Modern English." PMLA 56 (1941): 280--306.

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