2014年5月8日

論文をまとめるコツ

ここでは,論文をまとめるコツ(論文をまとめるときに注意してもらいたいこと)を解説します.なお,論文を書き始める前の企画書にあたるもの(論文プロポーザル)の書き方については,こちらを参照して下さい.また,実際に論文をまとめたら,提出する前に,こちらを確認して下さい.

論文を書くと言うこと
- 論文を書くと言うことには大きく二つの目的があります.ひとつは,自分で問題を探し出し,その問題に対する自分なりの答え(主張)を用意すること.そしてもうひとつは,その主張に裏づけ(根拠)を与えることです.

メッセージをひとつに
- 論文は,本や感想文とは違います.論文を通して取り上げる問題や論文を通じたメッセージ(論文を通してあなたが伝えたいこと,あなたの主張)はひとつで構いません.むしろ,そのひとつの問題を深く掘り下げるようにして下さい.

- 論文が出来上がったら,一段落の要旨を作成してみて下さい.日本語なら300字程度,英語なら100語程度の分量です.自分が論文を通してどのような問題にどうやって取り組んだのか?論文は何が新しく,その結果,何がわかったのかということをまとめます(もしメッセージがひとつであれば,要旨は比較的簡単にまとまるはずです).

客観性を持たせる
- 論文は,エッセイや自伝とも違います.多くの人に自分の意見を伝えるためには,客観的な視点が必要になります.

- それでは,客観的な視点で文章を書くためにはどうすればいいか?ひとつの方法は,「私」という一人称の主語を使わないようにし,その代わりに「本論文」,「この論文」のような主語を用いることです.

- 例えば,「『私』は〜と思う」という表現はできますが,「『この論文』は〜と思う」という表現はおかしくなってしまいます.これは,「思う」という表現が主観的であること,そして「思う」とは異なる表現が必要になることを意味しています.こうすることで,論文の中から主観性を排除しやすくなります.

オリジナリティを強調する
- 自分の貢献やオリジナリティを強調する上で,「これまでにわかっていること」と「まだ明らかになっていないこと(わからないこと)」を整理すると良いと思います.ここで「これまでにわかっていること」とは,「誰が何を(どのように)明らかにしているのか?」についての解説,つまり先行研究の紹介にあたります.

仮説を立てる
- データを見る場合,あるいは統計分析をする場合,あらかじめ簡単な仮説を設定しておくと,データや結果がぐっと見やすくなります.

- 例えば,「疑問:日本の中国への直接投資は1990年代を通じて増加しているか?」,「仮説:継続的に増加しているはず.その理由は×××だから.」さて,実際に予想通りでしょうか?それとも予想と違うでしょうか?予想(仮説)に反する結果には,新しい発見の可能性が秘められています.

図表の見せ方・まとめ方
- 論理の展開に一貫性を持たせる上で,図の見せ方や分析の方法にもコツがあります.

- 例えば,「所得格差の要因を明らかにする」という問題の場合,説明する要因はいろいろと考えられるかもしれませんが,説明したい事象は「所得格差」に絞られていることになります.このため,データを利用して散布図を描く場合,縦軸を「所得格差」で統一すると論文を展開しやすくなります.同様に,回帰分析のような統計分析を行う場合,独立変数はいろいろな変数が考えられますが,従属変数を一貫して「所得格差」の指標とすることで,議論を発散させずに済みます.

- 図を用いて説明するのは非常に効果的ですが,多くの色を使うことはおススメできません.情報を詰め込みすぎて,むしろ読者を混乱に招くことが多いためです.図を利用するときは,白黒印刷でもわかる程度の情報に絞り,簡潔にまとめるようにしてみて下さい.

- データや統計分析の結果をまとめる場合,あらゆる事実を説明しようとするのではなく,論点や注目すべき点を幾つかに絞るようにしましょう.また,本文を読むだけで図表の内容がわかるように,数字を踏まえながら説明するいいと思います.

- 例えば,

「2003年度の日本の対中国投資は,日本の対外直接投資全体の中でも比較的大きな割合を占めている.」

というのではなく,

「2003年度の日本の対中国投資は,3,533億円に上っている.これは日本の対外直接投資(4兆795億円)の8.7%にのぼっており,NIES(1,304億円,3.2%),ASEAN-4(2,188億円,5.4%)と比べてはるかに大きい.しかし,米国(1兆1,956億円,29.3%)やEU-15(1兆3,602億円,33.3%)と比べると,小さな割合になっている.」

と具体的に数字を挙げながら説明します.

- 同様に図表についても,その図表を見ただけで何の結果を示しているのかがある程度わかるようにまとめるようにして下さい.例えば,回帰分析の結果を示す場合,独立変数名を「ダミー変数」とするのではなく,「○○ダミー」として,その意味を注で説明するなどの工夫が考えられます.

- 図表が多くなると,図表に必要な説明も膨大な量になってきます.論文に載せる図表を必要最低限に絞ることで,大切なメッセージをうまく伝えられるようにして下さい.

根拠を示す
- 統計の情報(まとめた図表)から推測できることと推測できないことがある点に注意しましょう.また,自分の主張に根拠があるかどうか,根拠がある場合,それは論文で示した図表にもとづくのか,それとも他の資料や意見を参考にしているのかを明確にしましょう(前者であれば根拠となる図表をきちんと説明する必要があり,後者であれば誰のどのような意見にもとづくのかについて,参考文献を明記する必要があります).

- 言うまでもありませんが,他人の文章を写さないようにして下さい.また,新聞や本,ウェッブにある他人の意見をそのまま利用しないようにしましょう.

- 参考文献のまとめ方にはルールがあります.そして,ルールに従ってまとめることは,知識を継承していく上でとても大事なことです.参考文献のまとめ方についてはこちらを参照して下さい.

参考文献は新しいものをチェックする
- 文献は新しいものから順に,必要な分だけ古い文献にさかのぼるようにするといいと思います.古い文献が執筆された当時にわからなかった問題が,新しい文献で明らかになっているかもしれないからです.

バックアップ
-
データや原稿のバックアップは,必ず取っておくようにしましょう.これは,PCを利用して仕事を進める上での基本中の基本です.なお,私の演習の授業で利用しているデータは,学期を通じて利用する予定です.加工したデータは保存しておくようにして下さい.

- 研究の途中で新たな疑問な生じた場合,メモを残しておくようにしておくといいと思います.将来,また新たに論文を執筆する際の「種」になるかもしれません.

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