2015年7月27日

論文プロポーザルの書き方

論文のプロポーザルとは,論文をまとめる上での『企画書』を意味します.具体的には,以下の項目をまとめて提出して下さい.なお,論文を書く上でのコツについては,こちらを参照して下さい.また,実際に論文をまとめたら,提出する前に,こちらを確認して下さい.プロポーザルの例はこちらを参照して下さい(論文の最終版はこちら).

1.問題意識
『企画』の概要を説明します.何を何のために行うのか?(問題の提示と目的)どうして行う必要があるのか?(意義)その結果,どのような面白いことがわかるのか?(予想される結果)

2.目次案
論文の構成.どのように論理を組み立てるかのイメージ.

3.分析のフレームワーク
『企画』を実現させるための方法.論文の場合は何を利用してどのように行うのかをより具体的に説明する.

4.スケジュール
『企画』を実現するためのスケジュールです.

以下では,それぞれの項目についてより詳しく説明します.

1.問題意識

自分がその課題に取り組むことの意義をまとめます.具体的には,以下のようなことをまとめます.

- 問題
どのような問題に注目するのでしょうか?

- 目的
何のためにその問題に取り組むのかでしょうか?

- 問題の重要性
どうしてその問題が重要なのでしょうか?

- 論文のcontribution
あなたの論文は,何が新しいのでしょうか?論文は,たとえ小さなものであっても,誰もやったことのない新しい貢献・オリジナリティが必要です.他の人が同じことを既にやっていないか?関連する研究があるとすれば,その研究と比べて自分の研究がどのように優れているのか?その問題を明らかにすることで,これまでの何がどう変わるのかを説明します.

まず,論文を三つに分けて考えましょう:1)テーマ(question);2)分析手法・データ;3)結果.三つのうち何が新しいかを説明してみましょう.

- 予想される結果
予想される結果は?政策提言?経済学の理論への貢献?新事実の提示?(「予想される結果」は「第三節,分析のフレームワーク」のところでも構いません.)

【ポイント】
- 問題は自分で設定しましょう.他の人から与えられるものではありません.
- 取り上げたい問題をひとつに絞りましょう.言い換えれば,questionはひとつでOKです(分野にもよるかもしれませんが).


- 問題を絞ったら,キーワードで文献を検索し,先行研究(これまでにどのような研究が行われているか)をチェックします.面白そうな研究をひとつ見つけたら,その論文の参考文献リストをもとに,関連する文献を洗い出します.日本で行われていない研究でも海外では行われているかもしれません.その場合,そこで用いられている手法は参考になるはずです.文献の探し方はこちらを参照して下さい.


【ポイント】
- 何もないところからいきなり画期的なことを生み出すことはできません.あなたと似たような問題意識にもとづいて研究を行っている人が,世界のどこかにいるはずです.まず,あなたの問題意識に近い研究を探し出しましょう.そして,その研究をもとにして,自分が全く同じような研究をできるかどうかを考えてみます.次に,データを変えたり,理論モデルを工夫したりすることで,自分なりの新しい貢献が加えられないかを考えます.新しい貢献が多ければ多いほど,オリジナリティの高い論文になります.

- 「良い先行研究」を探し出せるかどうかということは,論文の出来を大きく左右します.ここで言う「良い先行研究」とは,面白いこと(自分の問題意識に合っていること),そして身の丈にあっていること(自分の研究の礎となりうること)です.問題意識が全く異なっていては,取り組んでも面白くありません.また,問題意識が合っていても,難しすぎてほとんど理解できないなら,それは参考になるとは言えません.

2.目次案

- 論文の構成とは,どのように論理を展開していくかという枠組みです.基本的には,次のような流れで構成されます.

1. イントロダクション
- 問題意識を解説します.
- 先行研究の紹介します(より専門的な論文の場合,Literature Reviewとして独立した節になることもあります).

2. 分析のフレームワークとデータ
- 想定する状況(仮定)と理論的な枠組み(理論モデル)を説明します.
- どのような手法で分析をするのかを解説します.
- データを利用する場合,データのソースや加工方法について解説します.

3. 分析結果
- 得られた結果について説明します.

4. 結論
- 論文を通じたメッセージをまとめます.

【ポイント】
- おおざっぱに言うと,論文は三つのパートから構成されます.最初が問題意識,最後は結論(あなたの主張),そして,その間の部分が主張の根拠です.上の第二節(分析のフレームワークとデータ)と第三節(分析結果)が,根拠を支える屋台骨です.あなたが最初に設定した問題が面白ければ面白いほど,より多くの人に関心を持ってもらえます.また,根拠がしっかりしていればしっかりしているほど,あなたの主張がより信頼を得ることになります.

- 論文全体のタイトルだけでなく,各節や図表のタイトルも非常に重要です.論文のタイトルと節のタイトル,図表のタイトルを読むだけで,読者におおよその内容を伝えられるよう工夫してみましょう.

3.分析のフレームワーク

- 理論に関する論文の場合,どのようなモデルをベースにして,何を新しく取り入れるのでしょうか?どのような新しいtheoremやpropositionが得られるのでしょうか?

- 実証分析を行う場合,どのような仮説を検定しようとしているのか.また,それが回帰分析につながる場合はどのような定式化で,どのような推定方法が考えられるのかを説明します.

- データを利用する場合は,どのようなデータが必要か.また,そのデータソースを確認しておく必要があります.これに関連して,データに加工(追加の計算など)が必要かどうかもどうかもチェックしておきましょう.

- 先行研究を踏まえてデータをチェックするときは,まず次の点を考えてみましょう.自分が全く同じデータを手に入れることができたとしたら,全く同じことができるでしょうか?

【ポイント】
- 学部生,修士の子がよく犯すミスがここです.せっかく面白いアイディアを持っていても,必要なデータが手に入るかどうか,実際に分析が可能かどうかをあまり考えずにリサーチを走らせてしまい,行き詰ってしまう子がたくさんいます.例えば実証研究の場合,仮に海外に似たような研究例があったとしても,日本で似たようなデータが手に入るとは限りません.また,データや統計のソフトが手元にあったとしても,計量分析の手法を理解していなければ意味がありません.せっかく問題意識が固まっていても,データが見つからなければ,また分析手法をきちんと理解できていなければ,結局何もできずに泥沼に陥ってしまいます.早めにしっかり詰めて,ある程度の見通しを立てておくようにしましょう.

4.スケジュール

- いつまでにどのような順序で作業を進める予定ですか?締め切りから逆算して,いつまでに何ができていなければならないかを示します.

【ポイント】
- 論文は「文章を書けば完成」ではありません.完全に文字をおこしてから日本語(英語)的におかしくないモノに仕上げる必要があります.また,節ごとにはロジックがつながっていても,複数の節を組み合わせると(論文全体にすると)ロジックにジャンプが生じている,ということは珍しくありません.このため,論文の推敲には,最低でも一ヶ月かかると考えておいて下さい.つまり,遅くとも締め切りの一ヶ月前には,ほぼ完全に文章をおこしておく必要があります.

5.参考文献

- プロポーザルをまとめる上で利用した文献のリストをまとめます.「問題意識」で取り上げた先行研究やデータの出所など.参考文献のまとめ方については,こちらを参照して下さい.

【ポイント】
- 直接引用していない文献は書く必要はありません.

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