ケルトの聖職者ドルイド (Druid) は,異教的なイメージを彷彿とさせる.『世界大百科事典第2版』によれば,「ドルイド (Druide)」は次のように説明される.
古代のケルト人の信仰をつかさどった聖職者,司祭階級。前7世紀ころから明確に姿を現す。前1世紀のカエサルの《ガリア戦記》によれば,ドルイドは貴族層に属し,公私の神事,犠牲,裁判,占星,民衆の教化などをつかさどり,絶大な権威を有した。ケルト人は霊魂の不滅を信じ,動植物の姿をとる神々を崇拝,泉や森,とくにヤドリギ,オークを神聖視し,犠牲をささげ占いをおこなった。こうした宗教を指導・教化したのが,ケルト語で元来〈オークの木を知っている人々〉を意味したドルイドであった。紀元前後ころその信仰の最大の中心地はブリタニアのモナ(現在のウェールズのアングルシー島)で,歴史家タキトゥスによれば,61年ローマ軍がここを攻めたとき,戦勝祈願に来た多数のドルイドを殲滅(せんめつ)し,神聖な樹々を切り倒したと伝えている。この事件を一つの契機に,ケルトの宗教やドルイドは衰え,キリスト教の普及とともに消滅したが,それらの要素は民話や地方的慣習の中に残存しているといわれる。
古典ギリシア語・ラテン語においては,druides, druidae などと複数形で用いられるのが常であり,ドルイドが集団として階級を構成していたことが強く示唆される.その語源については,様々な仮説が提唱されている.鎌田・鶴岡 (33--34) によれば,次の通り.
[ドルイド Druid 〔druidai (Gr.), druidae, druides (L.), druvis, darach (Gaelic)〕]
プリニウス説 <A man of the oak> 「樫の木の人」
スペンス説 drus (Gr.) = oak (樫,ミズナラ)
doire (Gaelic) = grove (森)
トーランド説 <Inhabitant of oak> 「樫に住む人」
dairaoi, draoi, dair (Gr.) = oak
aoi = A stranger, guest (訪れる人)
フレーザー説 <The wisdom of the oak> 「樫の木の賢者」
dair, duir (Ir.), dru, daru (Scot.), drew (WI.) = oak
wid or uid (Indo-German) = wisdom, knowing
ダルボワ説 <Very wise man> 「偉大な賢者」
Dru (強調語)+vid, wid (知る) = very + uid = knowing (知識)
ストーク説 <Truth-teller> 「真実を語る者」
dryw (WI.) = wren (bird, spirit of oak)
dryw (Ger.) = treu, true (Eng.)
エルダー説 <A servant of truth> 「真実に仕える者」
drus = oak
多くの説に共通するのは,ドルイドが知識に優れた「賢者」であるという点だ.また,樫の木や森への言及があり,これはドルイドが聖なる森で祭儀を行なっていた神官であること,とりわけ樫の木を祭礼に用いていたことと関係するといわれる(樫の木と関連づける語源説では,dru- =「木」と解釈されており,これは英語の tree とも同根とされる).
いずれの語源説にせよ,英語へはラテン語やフランス語を介して16世紀初めに導入された語である.
・ 鎌田 東二・鶴岡 真弓(編著) 『ケルトと日本』 角川書店,2000年.
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