hellog〜英語史ブログ

#3727. 題名における compleat の綴字[spelling]

2019-07-11

 一昨日の記事「#3725. 語彙力診断テストや語彙関連ツールなど」 ([2019-07-09-1]) で紹介した英語語彙の便利サイト Compleat Lexical Tutor では,タイトルに Compleat という綴字が見える.一般的には complete の綴字が用いられており,compleat は間違いのように思われるかもしれないが,これは古い綴字変種の1つで,意識的な使用だろう.
 「#2205. proceed vs recede」 ([2015-05-11-1]) で,標準的な綴字が確立する以前の初期近代期には,同じ単語に対して異綴りがいくつか存在していたことをみたが,標題の単語についても complete, compleat, compleate 等の綴字があった.compleat の綴字は,Izaak Walton 著 The Compleat Angler or the Contemplative Man's Recreation (『釣魚大全』;1653年)という今なお読まれ続けている著名な随筆に現われることから,大全ものの題名として擬古的に採用されることがある.1660年辺りに出版された Edward Cocker による The Compleat Arithmetician (『算術大全』)も教科書としてよく用いられたという.
 OED の complete, adj. 5b によると,"Revived in imitation of its 17th-cent. use, as in Walton's The Compleat Angler." とあり,例として1900年の The compleat bachelor,1953年の The compleat imbiber などが挙げられている.古くから読まれている決定版という匂いを出すために擬古的な綴字を用いるのは,「#2432. Bolinger の視覚的形態素」 ([2015-12-24-1]) で触れた通り,綴字という視覚メディアのもつ特性の有効利用といえるだろう.

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