ある音韻が有標 (marked) か無標 (unmarked) かを決定する要因の問題,すなわち有標性 (markedness) を巡る指標の問題については,音韻論でも様々な議論がなされてきた.一般的に用いられている指標は,以下のものである(菅原,p. 136).
有標 | 無標 |
不自然,複雑,特異,予測不能 | 自然,単純,一般的,予測可能 |
少数の文法体系でしか許容されない | 多くの文法体系で許容される |
獲得時期が遅い | 獲得時期が早い |
言語障害で早期に失われる | 言語障害でも失われにくい |
無標なものの存在を示唆する | 有標なものによって存在を示唆される |
調音が難しい | 調音が容易 |
知覚的により目立つ | 知覚的に目立たない |
表の5番目の「無標なものの存在を示唆する」「有標なものによって存在を示唆される」がやや理解しにくいかもしれないので解説しておく.たとえば音節型に関して様々な言語から事例を集めると,母音だけの音節 (V) と,子音と母音からなる音節 (CV) とでは,前者が後者よりも有標であることがわかる.というのは,ほとんどの言語において V があれば必ず CV もあるからだ.しかし,逆は必ずしも真ならずであり,CV があるからといって V もあるとは限らない.換言すれば,V の存在は CV の存在を示唆するが,CV の存在は V の存在を必ずしも示唆しないということだ.このような関係は含意的普遍性 (implicational universal) と呼ばれる.
言語における有標性の問題については,「#550. markedness」 (
[2010-10-29-1]),「#551. 有標・無標と不規則・規則」 (
[2010-10-30-1]) でも扱ったので,そちらも参照.
・ 菅原 真理子 「第6章 最適性理論」菅原 真理子(編)『音韻論』朝倉日英対照言語学シリーズ 3 朝倉書店,2014年.133--57頁.
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