「ナイチンゲール」あるいは「サヨナキドリ」.ユーラシア西部,アフリカに分布するツグミ科 (Turdidae) ノゴマ属 (Luscinia) の鳥.ヨーロッパ随一の鳴鳥で,繁殖期の夜間に雄が美しい声で鳴く.美声歌手の代名詞でもある.イギリスでは通常 Luscinia megarhynchos を指す.
英文学でも有名なこの鳥は,実際に鳴くのは雄なのだが,伝統的に女性扱いである.12世紀末から13世紀の始めの時代に書かれたとされる debate poem の傑作 The Owl and the Nightingale (O&N) では,人生の陰気で憂鬱な側面を代表するフクロウに対して,ナイチンゲールは人生の楽しく喜ばしい側面を代表している.この作品では,双方とも女性という設定である.
さて,nightingale の古英語の形態は nihtegale (女性名詞)である.niht 「夜」 + gale 「歌う人」という複合語で,後者と関連する古英語の動詞 galan 「歌う」は,口蓋化した子音をもつ giellan という異形態を通じて,現代英語の yell 「わめく,叫ぶ」につながる.同じ語形成は他のゲルマン諸語でも見られる( Du nachtegaal, G Nachtigall ) .
ここで注意したいのは,古英語形では第2音節に n が含まれていないことである.中英語でも n を欠いた nyhtegale などの綴字が見られる (see MED entry for "nighte-gale") .ところが,中英語では O&N を初例として,n を含む niȝtingale などの刷新形も現われ始める (see MED entry for "nightin-gale") .Atkins (p. 2, fn. 5) によれば,O&N を収めている現存する2つの写本(13世紀の最後の四半世紀のものとされる)により問題の語形を調べると,C 写本で n ありが16回,n なしが5回(この5回はいずれも,綴字体系の差異により B section として区分されているテキストの箇所に現われる),J 写本では l. 203 の Nihtingale を除き nyhtegale が決まった形だという.
語源辞典などによると,中英語での n の挿入は第2音節の母音の鼻音化変形とされているが,他の単語でこのような n の挿入の例はあまり見られない.16世紀,婦人のスカートを張り広げるのに用いたくじらひげ製の張り骨 farthingale は,フランス語 verdugale の借用だが,ここでは nightingale の場合と同様の n の挿入が見られる.他には,古い例として The Peterborough Chronicle の1137年の記録から,þolenden が þoleden の意味で用いられている例が見つかる.しかし,これは写字生による誤記と疑われ,n の挿入の確かな例とはいえない.
[ŋ] の鼻音が nightingale の語に柔らかく洗練された響きを与えているように思うが,いかがだろうか.クリミヤ戦争の従軍看護婦 Florence Nightingale (1820--1910) が思い出される.
・ Atkins, J. W. H., ed. The Owl and the Nightingale. New York: Russel & Russel, 1971. 1922.
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