hellog〜英語史ブログ

#791. iambic pentameter のスキャン[meter][chaucer]

2011-06-27

 詩行の韻律分析 (scansion) は,規則適用能力というよりも美的センスが必要と言われることもある通り,一筋縄ではいかない.複数の scansion が可能な「問題のある」詩行も少なくなく,決め手に欠くという例もある.しかし,もっとも典型的とされるような詩行ではきれいに規則が当てはまるのも確かであり,少なくともこのような場合には規則の知識が報われる.
 Chaucer の iambic pentameter を例に,scansion の実際を手取り足取り教えてくれる教本に Glowka がある.Glowka に従い,iambic 詩行の scansion の手順を大まかに並べると以下のようになる.

 (1) 脚韻語に強勢を振る
 (2) 多音節語について強勢音節を仮に定め,その強勢音節を含む iamb を作る
   - 本来語では接頭辞でない限り第1音節に強勢が落ちることを念頭に
 (3) その他の詩脚で明らかに iamb となるものを見つける
   - 強勢が句の主要部(右側)に置かれるという Nuclear Stress Rule を念頭に
   - 強勢が複合語の第1要素(左側)に置かれるという Compound Stress Rule を念頭に
 (4) 無強勢の e の処理
   - 後続母音に呑み込まれて脱落する elision の可能性を念頭に
   - 前後の流音などに呑み込まれて脱落する syncopation の可能性を念頭に
 (5) その他の考慮
   - 特に第1,第3詩脚で trochaic substitution の可能性を念頭に ([2011-06-25-1])
   - 無強勢音節が連続して現われる anapest の可能性を念頭に
   - 第1音節を欠く headless line の可能性を念頭に

 もっとも典型的な詩行では,(1), (2), (3) の手順でおよそ scansion が完了する.上記の抽象的な手順では意味不明と思われるので,Glowka (31--35) で解説されている通りに,GP (ll. 19--20) の couplet をスキャンしてみる.

(1) 脚韻語に強勢を振る

	                               /
	Befil that in that seson on a day,
	
	                                 /
	In Southwerk at the Tabard as I lay


(2) 多音節語について強勢音節を仮に定め,その強勢音節を含む iamb を作る
	 x / |       |  x   /|         /
	Befil that in that seson on a day,
	
	x   /  |        | x  /|          /
	In Southwerk at the Tabard as I lay


(3) その他の詩脚で明らかに iamb となるものを見つける
	 x / |  x  / |  x   /|x  / |x  /
	Befil that in that seson on a day,
	
	x   /  | x   /  | x  /|x   / |x  /
	In Southwerk at the Tabard as I lay


 ・ Glowka, Arthur Wayne. A Guide to Chaucer's Meter. Lanham, Md.: UP of America, 1991.

Referrer (Inside): [2018-12-27-1]

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