[2010-07-02-1], [2010-01-04-1]の記事で触れたように,近年,ここ20年くらいの間に言語起源論や言語進化論が盛んに研究されるようになってきた.今では国内外で,言語学,進化学,生態学,神経学,脳科学などが接触する学際分野として盛り上がっている.1世紀半前にパリやロンドンの言語学会で言語起源論が公式に禁じられたことを思うと嘘のようである.
1866年にパリの言語学会 ( la Société de Linguistique ) が,続いて1872年にロンドンの ( The Philological Society ) が言語起源論を禁じた.前者は特に有名だが,問題の禁止条文を見たことがなかったので調べてみた.以下は Google Books で見つけた画像.
1866年3月8日に承認された学会規程の第1条で,本学会は言語研究を目的とし,それ以外の研究対象は認めないと明言している.そして,第2条で問題の言語起源論の禁止を宣言している.
ART. 2 --- La société n'admets aucune communication concernant, soit l'origine du langage, soit la création d'une langue universelle.
第2条 --- 本学会は言語の起源や普遍言語の創造に関する一切の報告を受け入れない.
言語学会が言語起源論だけでなく普遍言語の創造も禁止していたのだと初めて知った.当時の言語を巡る言説や思想の迷走振りがうかがえる条文である.今考えると,言語学会が言語起源の研究自体を禁止してしまうというのは珍事どころか自殺行為とも思えるが,実際にはこの条文は効果覿面だった.その後,言語起源論は近年に至るまで科学の表舞台からほぼ姿を消したのである.
もっとも,進化論の生みの親 Charles Darwin (1809--82) やデンマークの英語学者 Otto Jespersen (1860--1943) など,言語の起源と進化の研究に貢献をなした研究者も皆無ではなかったとする見方が最近現われてきているようである(池内, p. 72--73).
・ 池内 正幸 『ひとのことばの起源と進化』 〈開拓社 言語・文化選書19〉,2010年.
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