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新規イオン交換樹脂を用いたGlyceraldehyde由来AGE吸着剤の開発
   
背景と目的 終末糖化産物(Advanced Glycation End-products; AGEs)は、糖尿病血管合併症、アルコール障害、加齢などに関与する物質として、ここ15年ほど注目を集め続けている。現在では、当該AGEsそのものあるいはその代謝物を診断に利用する試み、内服薬や点滴剤によって身体内でのAGEsの形成阻害を目指す試みなどが世界中で実施されている。そのような中で、体内に蓄積したAGEsを血液透析によって除外しようとする試みも注目を集めている。本研究開発では当該透析を可能にするAGEs特異的吸着透析カラムの研究開発を目的とする。
原理 AGEsはその基体がアルブミンやコラーゲンなどのタンパク質であることから、弱陰イオン性を呈している。このことから、陽イオン性基を有する物質には吸着することが知られている。しかしながら、一般の陰イオン交換体ではAGEsも吸着することができるものの他の血中タンパク質、すなわち、糖化していないアルブミンなども同等に吸着するため、AGEsへの選択吸着性はない。しかし、当化学教室・井上浩義教授によって合成された陰イオン交換樹脂(下写真)は、その骨格構造および陰イオン交換基の特性によって、他のタンパク質の7~11倍の選択性をもってAGEsを吸着することができる(特許出願番号:特願2005-286941)。現在、当該樹脂を用いて、糖尿病血管合併症を対象とした経口投与イオン樹脂製剤、糖尿病患者等向血液透析カラムの開発などを実施している。なお、本研究開発では、数多存在するAGEsの中で、最も細胞毒性が高く、診断マーカーとしても注目を集めているGlyceraldehyde由来AGEに絞って、その吸着除去を目指している。また、本研究開発は、食物中からAGEsを除去する(食物中のAGEsの約7%が体内に蓄積される)ための新規素材の開発に展開することも可能である。
研究開発方法 平成22年度は、上記有機系樹脂だけでなく、無機物質による吸着確認等を行うための物質合成を実施してきた。また、単純にAGEs吸着素材をカラムに充填する製品形態だけでなく、吸着剤を中空糸、ハニカム構造体などに成形したり、あるいは既存の濾過構造体へ付加させる方法によるより実用化へ近づけた開発を行った。AGEs吸着能の判定方法としては、開発素材充填カラムに、人工腎臓装置に採取したラット全血あるいは血漿を循環させ、溶出液の組成からGlyceraldehyde由来AGE選択性を判断した。本樹脂カラム試験では、医療現場における透析と同様に、ポンプ循環方式を用い、採取したラット血液を使用した透析試験を行った。
結果 平成22年度の結果は、バッチ法、あるいは他の構造体を使用した方法共に同様の結果であり、試験形態、被験物質に限らず良好な成績が得られることが明らかとなった。本研究開発は、平成22年度中に、企業様との間で、共同研究契約を締結して、研究開発を行っているために、本稿ではその内容を公表することができない。 【今後の展開】今後は、有機および無機体に関して以下の研究を展開する予定である。①被検物質の表面修飾(被検物質の性能を保持したままで、被検物質の表面の親水性向上を達成する)、②被検物質充填カラムを用いた人工透析試験(被検物質充填カラムを用いたGlyceraldehyde由来AGE吸着試験を、ラット血液を人工腎臓に適用し、透析試験を実施する)、③被検物質の食品に対する効果に関する検討(液体状あるいはペースト状食品素材に対するAGEs除去試験を実施し、その活用範囲および方法を探る)。平成23年度は特に、①および②に関して、研究開発を進める予定である。
備考 本研究開発は、当教室・井上浩義教授および当教室共同研究員の塚口舞先生(平成23年4月1日より久留米大学医学部医化学講座助教に就任)を中心に実施している。