DNAアプタマーを用いたセレウス菌産生毒素セレウリドの簡便測定法の開発
背景と目的 | 医療、食品あるいは環境分野においては、特定のタンパク質やペプチドを医療や食品加工などの現場で簡便・安価に検出・同定・定量することが求められている。生体関連物質の各種分析法の中で、電気化学的測定法、すなわちバイオセンサーが注目を集めている。バイオセンサーは、従来の測定法と比較して、①測定時間が短く、②取り扱いが簡便で、③大量サンプルの同時測定が可能で、さらに④測定に熟練が不要であるという利点がある。一方で、中、一本鎖DNAやRNAオリゴヌクレオチドアプタマーは、その自在な3次元構造から特異的に標的分子に結合することができ、既に、医学領域では、薬剤として血管新生型加齢性黄斑変性症(AMD)治療薬としてRNAアプタマーが開発され、世界中でマキュジェン(Macugen)という薬剤名で販売されている。このアプタマーは、通常の分子認識物質である抗体などと異なり、創成が迅速で、化学修飾可能で安定である。このことは、電気素子を用いるバイオセンサーに好都合であり、アプタマーは次世代生体認識素子として期待されている。本研究開発では一本鎖DNAアプタマーを用いて、電気化学的測定法により、セレウス菌産生毒素であるセレウリドの簡便測定法の開発を試みた。ターゲットであるセレウリドは、嘔吐型食中毒の原因となる毒素で、アミノ酸とオキシ酸からなる環状のデプシペプチドである。セレウリドは抗原性がないとされており、また、あった場合にもその毒性のために抗体産生ができず、酵素免疫定量法(ELISA)が利用できない。そのため、現在その検出は、ヒト培養細胞を用いたバイオアッセイ法や質量分析法により行われている。しかしながら、技術者の熟練やLC-MSなどの高価な装置が必要であること、また測定に時間がかかることから、改善された簡便で迅速な測定方法が待たれている。 |
研究開発方法 | ①セレウリドを標的分子としてSELEX法にて50塩基長の特異的結合DNAアプタマーを選択合成した。②1,6-ジクロロヘキサンを液膜溶媒とし、セレウリドアプタマーを溶解した有機溶媒溶液ものをキャピラリーに充填後、Pt線を挿した微小電極を作成し、センサー部とした。測定対象であるセレウリドは0.01Mのリン酸緩衝液(PBS)に溶解し、試料とした。測定は、セレウリド溶液に参照電極(Pt板)を固定し試料相とし、微小電極を挿して、電気化学的定量法にてセレウリドの測定を行った。 |
結果 |
①セレウリドに非常に高い結合性(Kd=10-9 M)を有するDNAアプタマーを開発し得た(下図は選択されたアプタマーの構造)できた。②DNAアプタマーをレセプターとして用いたバイオセンサーにより、セレウリド濃度の10倍量変化に対し、約1.9mvの電位差を安定して得ることができた。 |
今後の展開 | 平成22年度の研究開発の結果、微弱な電位差であるが、明瞭な濃度依存性示す電気化学的測定法を確立することができた。本法では、3桁、4桁を示すような精緻な濃度を示す測定は不可能である。一方で、実際のセレウス菌測定では、その存在の有無および食中毒が生じる濃度であるか否かの判別が主な目的となる。そのような意味で、本法は十分に実用に供することができる。今後、特に、平成23年度は電気シグナルの増幅を行い、実際の食品サンプルを用いて、実用化のための展開を図る予定である。 |
備考 | 本研究開発は、平成22年度本教室所属の大学院医学研究科修士課程2年生・母里彩子および井上浩義教授、ならびに本教室の共同研究員である久留米大学医学部自然科学講座・化学・東元祐一郎准教授および同大学医学部感染医学講座基礎感染医学部門・木田豊専任講師によって行われた。 |