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シラバス・久留米大学医学部(4年生)
   
講義日 平成25年4月16日(火)
講義タイトル放射線の安全な取扱い
講義担当教員

井上浩義(慶應義塾大学医学部化学教室)

本講義および試験に関する情報は、http://user.keio.ac.jp/~medchem/lecture.html

教員への質問は、hiroin@z5.keio.jpへ連絡下さい。

学習目標

本講義においては、医学の基本的技術のひとつである放射線の取り扱いについて遵守すべき事項を理解することを目的とする。講義では、放射線を規制している法令を挙げ、大学・病院で使用されている放射線施設・装置を紹介すると共に、全国の医療現場において実際に起きた事故を例示して、放射線の安全管理・使用について解説を行う。加えて、福島第一原発事故から2年を経た今日の環境放射能についても説明する。
キーワード:放射線;放射線障害防止法;医療法施行規則;労働安全衛生法;放射線過剰被ばく;放射性物質;福島第一原発事故


1.放射線の取扱いを規定する法令

久留米大学医学部で使用される放射線で規制を受けるもの

(1) 放射線を発生させる装置
エックス線発生装置、放射線発生装置(ライナック)、PET用核種製造装置(サイクロトロン)、動物実験用エックス線照射装置など
(2) 密封放射性物質
輸血照射用装置、医療用カメラ校正用線源、前立腺がん治療装置など
(3) 非密封放射性物質
RI施設における放射性同位元素あるいは放射性医薬品、電子顕微鏡使用時の核燃料物質(ウラン)など
(4) 放射性物質が付着した廃棄物(ゴミ)
非密封放射性物質が付着した研究用廃棄物および医療用廃棄物

図1.久留米大学における放射線の取扱場所と法的規制


放射線の取扱いに関しては、放射線障害防止法で規制された管理区域内で仕事に従事する者を「放射線業務従事者」、医療法施行規則で規制された管理区域内で仕事に従事する者を「放射線診療従事者」といい、必要な教育などが異なる。


表1.放射線を取り扱う個人が負うべき義務


2.全国の放射線事故事例

2-1.放射線の事故とは
放射線管理区域内で計画以上の放射線被ばくあるいは暴露が起こった場合、あるいは管理区域外に放射性物質あるいは放射線が漏れ出た場合、更には、管理区域外で放射性物質が見つかった場合(特に、湧き出し事故と呼ぶ)を放射線事故と呼ぶ。

2-2.放射線事故が起こる理由
原因1:所内ルールに従わないなど所定の手続きを経ずに事業所内に持ち込まれて管理されずにそのまま放置された。
①法施行以前に使用された古い放射性同位元素の放置、②かつて、管理されていない放射性同位元素等が発見された際に、所定の手続きを経ずに管理区域に持ち込まれ、そのまま放置、③-研究者等により所定の手続きを経ずに事業所内に持ち込まれた
原因2:使用等における取扱いが不適切であった
①購入した際に一時的に管理区域外に置かれたものが、失念され、そのまま放置、②管理区域内に適切な実験設備がなかったため、管理区域から持ち出され、使用された、③廃棄されたとして管理対象から外された放射性同位元素等が廃棄されずに残され、その後、放射性同位元素等とは認識されずに管理区域外に持ち出された
原因3:放射性同位元素であるとの認識が不十分
①機器に装備されている放射性同位元素について認識していなかった、②規制対象未満の放射性同位元素と誤って認識
原因4:取扱者の転入・転出の際の措置が不適切
①研究者の転入時に、前の機関で使用していた放射性同位元素等を含む物品を手続きを取らずに持ち込み、②研究者の転出時に、それまで使用していたもの及び所有者不明の放射性同位元素等を含む物品が引き継がれずに、放置
原因5:施設の廃止・移転等の措置が不適切
①施設の移転の際、旧施設に放置、②廃棄されたはずなのに廃棄されずに放置

久留米大学においても平成17年に放射線源紛失、平成17年および18年に病院において過剰被ばく事故が起こっている。

3.まとめ

放射線事故を防止するためには、個人と組織、両者の十分な留意が必要となる。

資料1.注意しましょう、放射線標識

下記の標識や記号が付いた容器類は注意が必要である。もし、管理区域外で発見した時は、必ず教務課に届け出なければならない。


資料2.個人被ばくの防御

放射線を使って仕事をする人は、法律で被ばくできる線量が決められている(表2)。


表2.個人被ばく線量限度

法  令  の  内  容

(1)実効線量限度

① 5年間の累積で100 mSvを超えないこと。
② ただし,①の5年間のうち,いかなる1年間も50 mSvを超えないこと。
③ 女子(妊娠不能と診断された者,妊娠の意思のない旨を使用者等に書面で申し出た者及び妊娠中の者を除く)は,3月間に5 mSvを超えないこと。
④ 妊娠中である女子については,本人の申し出等により医学部長(または病院長)が妊娠の事実を知ったときから出産までの間に,内部被ばくについて1 mSvを超えないこと。

(2)等価線量限度

① 眼の水晶体については1年間に150 mSvを超えないこと。
② 皮膚については1年間に500 mSvを超えないこと。
③ 妊娠中である女子の腹部表面については本人の申し出等により医学部長が妊娠の事実を知ったときから出産までの間につき2 mSvを超えないこと。


図2.各種個人被ばく線量図3.個人被ばく線量計は、男性の場合、胸に装着します。
図4.個人被ばく線量計は、女性の場合、腹部に装着します。図5.(悪い例).鉛エプロンを使用する場合には鉛エプロンを使用する場合には個人被ばく線量計はエプロンの下に装着します。

演習:下のカッコの中に適切な語句を入れなさい。

放射線の安全取扱いに関するすべての法令は、(①)の精神にのっとり定められている。病院で使用される放射線に関しては(②)の法令で規制が定められ、放射性物質あるいは大量の放射線を使用する場合には、②の法令の他に、(③)の法令によっても規制される場合がある。また、個人被ばくを防ぐためには、法令遵守だけでなく、(④)(ガラスバッジ等)の測定結果に自ら注意を払う必要がある。
①原子力基本法;②医療法施行規則;③放射線障害防止法;④個人被ばく線量計



資料3.福島第一原発事故から2年

平成23年3月11日の東日本大震災によって発生した福島第一原発事故から2年を経過し、原子炉は、今後、格納容器の修理、反応炉への水の再注入、核燃料の持ち出しなどを行わねばならない。最終的に、原子炉の解体までこれから30~40年の年月を必要とする。一方で、事故原子炉から放出された放射性物質は世界中に広がり、放射性セシウム(質量数124:半減期2年;質量数127:半減期30年)の人体および自然界への影響について懸念されている。本講義では、この放射性セシウムの土壌汚染と人体への影響の程度についても解説する。更には、現在問題となっている放射性物質の除去(除染という)についても紹介する。