シラバス・慶應義塾大学医学部化学実験
1.教育目標(GIO)
春春学期には,金属陽イオンの定性分析を題材として化学実験の基本操作と実験のマナーを身に付けるとともに,無機化学の各論的分野を主体的・体験的に学ぶ。本授業では、一部PBL形式を採ることで「自ら考え、実験する」ことに重きを置く。さらに,今後の医学・医療の実務において基盤となる実験ノートのとり方,レポートの書き方についても習得する。
GIOs:
(1)化学実験の基本操作・マナーを身に付ける。
(2)器具の洗浄,廃液の処理などの操作を完璧に習得する。
(3)金属陽イオンの定性分析について,自らの実験計画の下で、各反応を自分の目で確かめ,どのような反応が起きたかを理解する。
(4)最終回には前期の実験で得た知識・経験をフルに活かして未知試料の分析を行い,研究実験を疑似体験する。
(5)レポートを作成することにより,レポートや論文の書き方の基本を身に付ける。
(6)実験を機に無機化学の各論的分野の理解を深める。
秋秋学期には,有機化学実験を行う。有機化合物の抽出・分離,精製,比較的簡単な有機化合物や染料,高分子化合物などの合成を行う。また,定性分析とスペクトルによる同定も行う。基礎的な有機化学実験を通して有機化学の理解を深めるとともに,有機化合物の取り扱い方,安全に実験を行うために注意すべき事項などを学ぶ。
GIOs:
(1)有機化学実験の基本操作を身に付ける。
(2)有機化合物の取り扱い方の基本を身に付ける。
(3)有機化学実験を安全に行うための基礎事項の理解を深める。
(4)実験を通して有機化学の理解を深める。
*レポートの書き方に関しては、実験時間以外に質問・相談時間を設ける。連絡がある場合には、掲示板および医学部化学教室HPに掲示する。当該HPのLecture欄を参照すること。
2.実験予定
実験指導:井上浩義・久保田真理・大石毅
<春学期:無機陽イオンの定性分析>
月・日・曜日 | 時限 | 講実 | 授業タイトル |
---|---|---|---|
4月10日(水)B組 | 3,4 | 実験 | 第1回 実験準備(ガイダンス) |
4月17日(水)A組 | 3,4 | 実験 | 同上 |
4月24日(水)B組 | 3,4 | 実験 | 第2回 レポートや実験ノートの書き方指導 |
5月1日(水)A組 | 3,4 | 実験 | 同上 |
5月8日(水)B組 | 3,4 | 実験 | 第3回 第Ⅰ属陽イオン |
5月15日(水)A組 | 3,4 | 実験 | 同上 |
5月22日(水)B組 | 3,4 | 実験 | 第4回 第Ⅱ属陽イオン |
5月29日(水)A組 | 3,4 | 実験 | 同上 |
6月5日(水)B組 | 3,4 | 実験 | 第5回 第Ⅲ属陽イオン |
6月12日(水)A組 | 3,4 | 実験 | 同上 |
6月19日(水)B組 | 3,4 | 実験 | 第6回 第Ⅳ属陽イオン |
6月26日(水)A組 | 3,4 | 実験 | 同上 |
7月3日(水)B組 | 3,4 | 実験 | 第7回 未知試料測定 |
7月10日(水)A組 | 3,4 | 実験 | 同上 |
7月17日(水) | 3,4 | 実験 | 補講日 |
プリント・白衣・名札・糸綴じ実験ノート(プリント・名札は第1回の時に配布,白衣は生協で各自購入しておくこと)を持参すること。保護メガネは実験室に備え付け。
<秋学期:有機化学実験>
月・日・曜日 | 時限 | 講実 | 授業タイトル |
---|---|---|---|
9月25日(水)B組 | 3,4 | 実験 | 第1回 実験準備(ガイダンス) |
10月2日(水)A組 | 3,4 | 実験 | 同上 |
10月9日(水)B組 | 3,4 | 実験 | 第2回 アセチルサリチル酸の合成 |
10月16日(水)A組 | 3,4 | 実験 | 同上 |
10月23日(水)B組 | 3,4 | 実験 | 第3回 アニリンとアゾ染料の合成 |
10月30日(水)A組 | 3,4 | 実験 | 同上 |
11月6日(水)B組 | 3,4 | 実験 | 第4回 アニサルアセトフェノンの合成 |
11月13日(水)A組 | 3,4 | 実験 | 同上 |
11月27日(水)B組 | 3,4 | 実験 | 第5回 カフェインの抽出・単離 |
12月4日(水)A組 | 3,4 | 実験 | 同上 |
12月11日(水)B組 | 3,4 | 実験 | 第6回 尿素樹脂、ポリスチレンおよびナイロンの合成 |
12月18日(水)A組 | 3,4 | 実験 | 同上 |
12月25日(水)B組 | 3,4 | 実験 | 第7回 まとめ(グループ討議) |
1月8日(水)A組 | 3,4 | 実験 | 同上 |
1月15日(水) | 3,4 | 実験 | 補講日 |
第2回から第6回までの実験の順序は,出席番号により,上表とは異なることがある。 プリント・白衣・名札(春学期に配布したもの) ・糸綴じ実験ノートを持参すること。保護メガネは実験室に備え 付け。
3.実験の内容
<春学期:無機陽イオンの定性分析>
第1回:「実験準備(ガイダンス)」
GIO:
実験器具の名称を覚え,どこに何が置いてあるかを確認する。器具の扱い方についても身に付ける。さらに,各自で使用する器具・試薬についてチェックし,不足あるいは破損している器具の補充・試薬の補充などを行い,第2回からの実験が円滑に進むように準備を行う。また、実験において自ら考えることの重要性について認識頂き、本春学期実験が円滑に進むための注意を行う。
SBOs:
(1)器具の名称がわかり,それを正しく使用することができる。
(2)基本的な化学実験操作ができる。
(3)廃液の処理を徹底的に行い,環境に配慮する姿勢が備わる。
(4)自ら考え、実験する姿勢を身に着ける。
第2回:「レポートや実験ノートの書き方指導」
GIO:
今後、医学部学生が学習・研究する上で必須であるレポートや実験ノートの書き方について理解する。レポートの形式および内容、更には期限を遵守することの重要性にも言及する。実験ノートは守るべき形式およびその意義について学ぶ。
SBOs:
(1)レポートの形式および記載する内容を理解し、実践できる。
(2)実験ノートの形式および記載の意義について理解し、実践できる。
第3回:「第Ⅰ属陽イオン」
GIO:
Ag+,Hg22+,Pb2+の各イオンに特徴的な反応を自分の目で確認し,比較し,これらの化学反応について理解する。その上で,これら全てを含む試料溶液の分離分析を行い,各イオンの分離・検出方法について理解を深める。なお、この回に課題が出されるため、第3回から第6回までの間に、その課題に沿ったレポートを提出する。
SBOs:
(1)Ag+,Hg22+,Pb2+の各イオンの反応を比較・説明できる。
(2)上記イオンの混合溶液を分離・検出することができる。
第4回:「第Ⅱ属陽イオン」
GIO:
Cu2+,Cd2+,Pb2+,Bi3+の各イオンに特徴的な反応を自分の目で確認し,比較し,これらの化学反応について理解する。その上で,これら全てを含む試料溶液の分離分析を行い,各イオンの分離・検出方法について理解を深める。
SBOs:
(1)Cu2+,Cd2+,Pb2+,Bi3+の各イオンの反応を比較・説明できる。
(2)上記イオンの混合溶液を分離・検出することができる。
第5回:「第Ⅲ属陽イオン」
GIO:
Cr3+,Mn2+,Fe3+,Al3+の各イオンに特徴的な反応を自分の目で確認し,比較し,これらの化学反応について理解する。その上で,これら全てを含む試料溶液の分離分析を行い,各イオンの分離・検出方法について理解を深める。
SBOs:
(1)Cr3+,Mn2+,Fe3+,Al3+の各イオンの反応を比較・説明できる。
(2)上記イオンの混合溶液を分離・検出することができる。
第6回:「第Ⅳ属陽イオン」
GIO:
Co2+,Ni2+,Zn2+の各イオンに特徴的な反応を自分の目で確認し,比較し,これらの化学反応について理解する。その上で,これら全てを含む試料溶液の分離分析を行い,各イオンの分離・検出方法について理解を深める。
SBOs:
(1)Co2+,Ni2+,Zn2+の各イオンの反応を比較・説明できる。
(2)上記イオンの混合溶液を分離・検出することができる。
第7回:「未知試料の定性分析」
GIO:
第2回から第6回までに扱った陽イオン13種のうち,いくつか(0かもしれないし,全部かもしれない)が入った試料溶液を各人が渡され,それを分離分析する。今までの実験の理解を深めるとともに,研究者としての実験の進め方,理論的な思考を養う。結果は、実験カードの形で提出して頂き、成績評価の一環とする。
SBOs:
(1)前期に行ってきた無機陽イオンの分離分析を未知試料について全て連続して行うことにより,無機陽イオンの定性分析についてより理解を深めることができる。
(2)緊張感のある実験を経験することにより自分の弱点を認識し,それを今後の反省材料として,更なる飛躍が期待できる。
<秋学期:有機化学実験>
第1回:「実験準備(ガイダンス)」
GIO:
秋学期に実施の有機化学実験全体についての概要,有機化学実験において安全面で特に注意すべき点,実験室内での実験設備・装置の配置について理解する。また,有機化学実験の特殊な器具を用いた操作法や各装置の扱い方を学ぶ.さらに,実験実施の際のグループ分けを行った後に,次回より実験が円滑に行えるようにグループごとに実験器具・試薬の点検・補充を行う。
SBOs:
(1)秋学期にどのような内容の実験を行うのか概要が説明できる。
(2)特殊な器具の扱い方が説明できる。
(3)有機化学実験で特に安全上注意すべき点について説明できる。
注意:秋学期実験全般に出席番号によっては,実験の順序が異なる。
第2回「アセチルサリチル酸の合成」
GIO:
解熱剤,鎮痛剤として用いられるアセチルサリチル酸(アスピリン)を合成する。また,合成した化合物を薄層クロマトグラフィー(TLC)を用いて標準品と比較,同定することにより,TLCを用いての同定の仕方を体験的に理解する。
SBOs:
(1)アセチルサリチル酸の合成の実験方法について説明できる。
(2)クロマトグラフィーの原理について説明できる。
(3)TLCの原理と実験手順について説明できる。
第3回:「アニリンとアゾ染料の合成」
GIO:
代表的なベンゼン置換体であるアニリンをニトロベンゼンより合成し,さらに,得られたアニリンからアゾ染料を合成,染色を行い,これらのプロセスを理解する。
SBOs:
(1)アニリンをニトロベンゼンから合成する方法を説明できる。
(2)アゾ染料の合成法について説明できる。
(3)染色の化学について説明できる。
第4回「アニサルアセトフェノンの合成」
GIO:
アルドール反応は,カルボニル化合物の反応の中でも特に重要な反応であるが,本実験では,アセトフェノンとp-アニスアルデヒドとの交差アルドール縮合によりアニサルアセトフェノンを合成する。本実験をきっかけとして,アルドール縮合全般について理解を深め,その縮合実験法を理解する。また,合成した化合物をガス・クロマトグラフィー/質量分析(GC/MS)を用いて分析することにより,GC/MSを用いての同定の仕方を体験的に理解する。さらに,融点の測定法についても理解する。
SBOs:
(1)アルドール縮合一般の反応メカニズムについて説明できる。
(2)アニサルアセトフェノン合成の実験方法について説明できる。
(3)GC/MSを用いて化合物を同定する方法について説明できる。
(4)融点の測定法について説明できる。
第5回「カフェインの抽出・単離」
GIO:
有機天然物の研究には,抽出法がよく用いられるが,今回は,カフェインを抽出法により取り出し,昇華法により精製した後に,赤外(IR)スペクトルと高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を用いて標準品と比較,同定する。この実験により,抽出の仕方,昇華による精製の仕方,IRスペクトルとHPLCを用いての同定の仕方を体験的に理解する。
SBOs:
(1)天然物から成分を抽出する方法について説明できる。
(2)昇華法により物質を精製する方法について説明できる。
(3)IRスペクトルを用いて化合物を同定する方法について説明できる。
(4)HPLCを用いて化合物を同定する方法について説明できる。
第6回「尿素樹脂、ポリスチレンおよびナイロンの合成」
GIO:
尿素樹脂,ポリスチレン,ナイロンを合成し,そのプロセスを理解する。
SBOs:
(1)尿素樹脂の合成法について説明できる。
(2)ポリスチレンの合成法について説明できる。
(3)ナイロンの合成法について説明できる。
(4)種々の合成高分子について分類し,それらの性質について説明できる。
第7回:「まとめ(グループ討議)」
GIO:
第2回から第6回までに行った実験について、小グループに分かれ、プレゼンテーションを行い、グループごとに討議を行う。
SBOs:
(1)実験結果に基づいたプレゼンテーション能力が身に付く。
(2)実験結果に基づいて討論する能力が身に付く。
4.教科書・参考書
<春学期>
参考書:
(1)分析化学実験 阿部光雄編 裳華房
(2)無機半微量分析 松浦二郎他 東京化学同人
(3)定性分析化学(上,中,下) 高木誠司 南江堂
(4)基礎無機化学 F.A. コットン,G. ウィルキンソン 培風館
(5)無機化学(上,下) R.B. ヘスロップ,K. ジョーンズ 東京化学同人
(6)無機化学(上,下) F.A. コットン,G. ウィルキンソン 培風館
(7)理科系の作文技術 木下是雄 中央公論新社
(8)化学のレポートと論文の書き方 泉美治他監 化学同人
(9)エッセンシャル化学辞典 玉虫伶太他編 東京化学同人
(10)岩波理化学辞典 長倉三郎他編 岩波書店
<秋学期>
教科書:
(1)有機化学概説 J. マクマリー 東京化学同人
参考書:
(1)基礎有機化学実験 畑一夫,渡辺健一 丸善
(2)有機化学実験 L.F. フィーザー,K.L. ウィリアムソン 丸善
(3)第2版 機器分析のてびき 泉美治他著 化学同人
(4)有機化合物のスペクトルによる同定法 R.M. シルバースタイン,F.X. ウェブスター 東京化学同人
(5)有機化合物への吸収スペクトルの応用 J.R. ダイヤー 東京化学同人
(6)実験化学講座 日本化学会編 丸善
および春学期の参考書の(1),(7),(8),(9),(10)
5.評価方法
出席状況,実験態度,レポートで多面的に評価する。春学期と秋学期の平均で総合評価を行う。全ての実験に出席することが原則。止むを得ない事情により欠席の場合,保証人連署の欠席届(所定の用紙)を出席可能となった日から2週間以内に提出する。病欠の場合には,医師の診断書も提出する。