これは日本政府の方針とも合っているように思えます。1980年代まではほとんどの大学で
対策はとられていなかったし、「セクハラ」という言葉すら一般的な概念ではありませんでした。
被害をよく知る女性研究者らの根気良い働きかけで、文科省もやっと動き出し、1990年代後半から
各大学や研究所にセクシュアル・ハラスメント防止のガイドラインや防止委員会が作られ
はじめました。大学によっては抜本的な対策がとれたところもありますが、とりあえず
ガイドラインを作っただけという大学もあります。
とはいえ、「セクハラ」という言葉が定着してきました。しかしこれで解決したわけでは
ありません。加害者は反省しないし、謝らないし、居直ります。裁判で訴えられた高名な学者である
加害者が、被害者を応援する人達をかたっぱしから訴えた事件も知れ渡りました。
加害者は学術の世界で「大物」であったり、学会の「偉い身分の人」であったり、有名大学の
教授だったりします。いっぽう被害を受ける方は、権力構造の下側にいるわけです。
私はセクハラした人間は、学会の「偉い人」であれ、業績の大きい人であれ、学者として相応に
処分すべきだと考えますが、そうすると「偉い」学者が学術の世界からぼろぼろ抜けていくことになり、
政府としては抜本的な対策をとるのは難しいところでしょう。バックラッシュも
吹き荒れる時代になり、政府は「男女平等」すらひっこめて、「男女共同参画」という
非常にあいまいな意味の言葉をつくり出しました。そして、解決すべき課題として、仕事と育児の
両立とか、女性研究者が働きやすい環境する、という題目をあげ(つまり男性が気分を悪くしない
課題をならべた)、まるでセクハラ被害がなくなったかのように、ふるまっています。ようするに
セクハラ防止や対策は、加害者が居直るので、お手上げなのです。
そのような中でも、次第に大学院へ進学する女性が増え、女性研究者の数が増えてきました。
あるていど数が増えれば、雰囲気は変わります。女性が3割を越すと、雰囲気も体制もかなり変わる
と言われています。まだ、3割に満たない分野がほとんどですが、しだいに数が増えて、
セクハラ加害者にたいする目も厳しくなってきているのは確かです。つまり日本政府のとっている
政策は、明記してはいませんが、世代交替により雰囲気が変わるのを待つ。現在の居直っている
偏執狂的な加害者が全員いなくなれば、男女共同参画があたりまえで育ってきた若い世代の
世の中になるので、今後はきっと良くなるに違いない、というものです。これは甘いと思いますが
ひとつの手ではあります。
裁判のやりかたについて知る
健康ほど大事なものはありません。もしあなたがセクハラ被害による PTSD で苦しみ、
失うものはもうないと思いつめているのなら、これほど強いことはありません。あなたは
世界で最強です。苦しくても、職は絶対に辞めないで、相手に最大限の
ダメージを与えることを考えましょう。辞めたり自殺したり相手を殺したりするのは、
最後にとる手段です。その他に、あなたにもできることが、きっと何かあるはず。
自分の可能性を信じて下さい。これまでの、2000年間の女性の苦難の歴史を考えて、
何か前進させることをやってから、最後の手段を考えましょう。
体力をつける
体力が落ちているあなた、加害者より体力的に劣っていると思うあなた。体力をつ
けましょう。セクハラは男女間の社会的な階層構造とともに、体力でも女が劣るという
背景もあるので、自分に相手をなぐっても大丈夫なほどの体力や敏捷性がつけ
ば、相手が怖いという感情が自然になくなるようです。たとえば相手とすれ違った時
でも、なぐってやれると思えば怖くない。私の友達は空手の有段者ですが、セクハラ
をした相手に「あんたなんか5分以内にのしてやる自信がある」と言ったら、
相手の方が避けるようになったそうです。ははは。私も太極拳やエアロビやジムなど
いろいろやって体力をつけてきました。何しろ杖をついていたころは体力ゼロでした
から。被害が強いと、何をしていても意識がそっちに戻ってしまいますが、できるだけ
体を動かして下さい。最近は女性むけの格闘技コースも流行っています。若い女性だけで
なくおばさんもたくさん習いに通ってますので、考えてみましょう。(格闘技は足を
つかう運動なので、体力がすごく落ちてしまった方は、まず体力をつけてからね。)
研究者に材料を提供する
あなたの体験を書いておきましょう。特に加害者の行動は綿密に記述すること。
最近はフェミニズムの研究者が加害者研究に取り組んでいます。材料を提供するのは
意義のあることです。加害者の異常な行動や組織から浮いているさま、(加害者が
大学の先生なら)研究者としての能力の欠如とか人間性の欠落をあらわす出来事を
集めておきましょう。加害者が自分の主張を書いて印刷してくれれば好都合です。
科学史としても、日本ではなぜ女性研究者がこんなに少ないかの記録的価値は
あります。50年後、100年後に残る記録資料だと思って書いて下さい。
できれば何か印刷物として出版して、後世に残しましょう。
加害者の更生は不可能です。セクハラ加害者のための更生施設を作り、教育をほどこせば
更生する(更生するまで社会に出さない)なんていうのは甘いです。ではどうしたらいいのか?
私は加害者の名前は公表すべきだと思います。そして所属学会にも周知すべきです。
(ただし加害者の名前を出すと被害者が傷つく場合を除く)。
加害者が匿名のままでは被害を繰り返すことを防げません。大学は被害者を守るという名目で
加害者名を匿名にすることが多いですが、もしその加害者が別の学生に被害を及ぼしたら、どう
責任をとるのでしょうか。加害者が仮に大学をやめても、別の大学に再就職して、そこで
加害することもあります。また、加害者と被害者が同じ分野の研究者であった場合、
加害者が大学を去っても、同じ被害者に学会で嫌がらせを続けることもあります。学会事務所で
働く女性への加害も防ぐことができません。
被害者が学生の場合には、学費を返還すべきだと考えます。被害者が留学生の
場合には、被害者の出身国や教育機関に加害者の名前と事件を知らせるべきです。
被害者に謝る。これは最も大切なことです。早めに謝れば被害が拡大するのを防ぐことも
でき、被害者の心の傷が大きくなることも防げ、したがって問題が必要以上に大きくなることもないのです。