労災を申請しよう(大学に職がある場合)
セクシュアル・ハラスメントの被害のため、心身の健康にダメージをうけた場合、
労働者(大学教職員も労働者です)は労災申請ができます。病院の治療費や休職した
場合の補償があります。
ただし時効があるので、早めにやりましょう。
どこに申請する?
- 労災は各地域の労働基準監督署が扱っている。
キャンパスが複数ある大学では、キャンパスごとに事業所として届けてある
はずなので(労基署に聞くと担当の労基署を教えてくれる)、そのキャンパスがある
都道府県の労基署が担当する。
- 例:大学の本部が東京都にあり、人事部がそこにあっても、あなたが別の
キャンパス(たとえば神奈川県xx市)に勤務している場合には、
xx市の労基署(xx○○労働基準監督署)に申請書を出し、そこで審査してもらう
ことになります。
担当の労基署がわからない時は、大学の人事課に聞く、労組に聞く、自分で
どこかの労基署に電話して、教えてもらうなどの方法があります。
申請できることがらは?
- 医師などの治療を受けていることが必要
セクシュアル・ハラスメント一次被害や二次被害のために、心身の健康が
損なわれ治療をうけていればできる。2年間遡れる。つまり2年以上前の
ことは申請できない。(申請書類には書けるが、治療費は出ない)
- 休職や休業の補償:
休職してその間に治療をうけていれば、減給などの補償を労災で申請できる。
ただし時効がある(休んだ日から2年)。つまり最後に休んだ日から2年以内に
申請する
- 治療をうけている場合、健康保険を使っていると思います。労災申請する場合、
1回分だけ自費で払い(労災申請するからと病院に伝えて)書類を整えます。
労災が認められれば、この自費払いの分は後で返ってきます。
申請書はどうやって手にいれる?
- 大学の人事課が持っている。でもぉ、きっと「セクハラでは労災申請はできま
せん」(これは嘘。申請できます)とか「セクハラで申請しないで下さい。大学の
名誉が傷つく」(こら、逆だろがぁ)、
なんて言うかも知れません。
その時は、「じゃ自分で申請しますので書類に
判子だけ下さい」って言いましょう。私の場合は、「書類にいろいろあり
わからないので、自分で申請して下さい」と言われ(つまり嫌がらせです)、
書類ももらえなかったので、
労働基準監督書まででかけて、書類をもらいました。
- 大学の人事課が協力的でない場合には、労基署(どこでもらっても書類は同じ)
に行けばもらえる。労災指定病院にかかっている場合には、病院に用紙がある。
用紙は共通なので、どこでもらってもOK。
- 労基署にいけばもらえるもの
(厚生労働省 都道府県労働局 労働基準監督署)
- (緑)労災保険給付の概要
- (青)労災保険--療養(補償)給付の請求手続き :業務災害または通勤災害による傷病
- 精神障害等の労災認定について
この中にちゃんとセクハラ被害の場合の
申請例が出ています。
- 申請用の書類
- (注意)かかっている病院が労災指定病院か、そうでないか、または接骨院
(柔道整復師)か等によって、書類(様式第5号とか様式第7号など)が違う。
ちなみに近所でかかっている柔道整復師のところで書類に記入してもらおうとしたら、
すっごーく嫌な顔をされて、もう来ないで下さい、みたいなことを言われました。
後でわかりましたが、柔道の世界はセクハラが蔓延しているんですね。この院長(男)も
セクハラ体質だったみたいで、やましいことが山盛りにあったんだろうと想像しています。
大学の中にある診療所でも労災指定になっている所もあるが、そうでない場合
もある(その場合は様式第7号)。労基署で調べてもらえる。
- 私は自分でもらいに行きましたが、事前に電話で、「セクハラで申請したい」
と言っておいたら、女性の人が対応してくれました。そこで簡単に事情を聞かれる
(かもしれない)ので、友人に付いていってもらうのも良いですね。私は話すのが
嫌だったあので、これまでの経過の概略を書いた紙を読んでもらいました。それ
から職場の状況や身体症状などをひととおり話し、労災保険の手続きについて
聞きました。
申請書の書き方
- 病院が記入する部分
まず病院で診察をうけた時に、労災申請書の用紙に、医師の証明(病名と
概要の記入と、印)をもらう。そして病院の受付で薬の内容(点数)を記入して
もらう。治療費は全額を自分で払い(高いっ)、そのレシートをつけて申請する。
治療代金は、労災が認められれば、後で戻ってくる。認められなければ、
通常の保険扱いになる。定期的に治療を受けている場合には、毎回自分で払うの
は大変なので、とりあえず1回分だけ自分で払って、労災申請の結果を待つ方法
もある(労基署に相談しましょう)(申請が認められれば、いったん全額を自分で
払い、お金が振り込まれるのを待つ)
- 自分が記入する部分
- 災害の原因および発生状況:セクハラの発生と二次被害、そのなかで体調が
どのように悪化していったか、よくわかるように書く。(長いでしょうから、
別紙で添付できる)大学や主任などの管理職の怠慢により二次被害が大きくて、
そのための健康悪化もあるなら、それもきちんと主張すること。
- 労働保険番号:大学の人事課で聞く。
(注意:いつも使っている健康保険証の番号とは違う)
- 大学が記入する部分
大学の証明(はんこ):いろんな部署をたらい回しにされて、時間をつぶされ
ないようにしましょうね(ありがちですが)。私もたらい回しにされ、時間だけがどんどん
過ぎていき、体力と気力を消耗しました。大学がセクハラ被害の事実を認め
ない場合にも申請できますので、あきらめないで。大学が証明印を押してく
れない場合には、その欄を空欄のままにしておき、別紙で、「証明できないと
いう証明書」を大学に書いてもらいます。労災ではよくあることらしい。
なお、複数の病院にかかっている場合には、申請用紙も複数必要だが、大学の印は
そのうちの1枚だけに押してもらえばOK(あとは空欄にしておく)。詳細は労基署
で聞いてね。
いよいよ申請する
- 大学が協力してくれない場合には、自分で労基署に持参するか、郵送する。
用紙をもらいに行く時に話をしてあれば、郵送ですむ。
申請書類を出したした後
- 申請が受理されると、労基署が本人や大学側などの関係者を呼んで話を聞き
く。(詳しい書類を出すこともできる)。誰が呼ばれるかは申請者には知らされ
ない。労災申請を認めるか否かの結論は、労基署が頼んだ医師の判断もあわ
せて出される。
- セクハラの被害による労災申請は、まだ前例が少ないため結論が出るまでに
時間がかかる。(たとえば業務中に電球をとりかえている途中で、脚立から
落ちて骨を折った、などの場合には、すぐに認定される)
- 結果(労災が認められるか否か)は郵送されるが紙1枚の簡単なもの。詳しい
理由を労基署に聞きにいくことができるが、あまり詳しく教えてもらえない。
この通知は本人と勤務先に届く。
- 申請が認められなかった場合には、不服申請ができる(60日以内)。
労災には3段階ある
- i)労基署への申請
労働者が各市町村の地域ごとにある労基署へ申請する。ここでは申請者から
事情を聞くとともに、関係者(この場合はSH加害者や周囲の人々、大学当局が
含まれているかは不明)から聞き取り調査します。関係者を労基署に呼び出し
て調書をとります。主治医のカルテも提出されるが、労基署は独自に専門家に
診断をあおぐ。結論は、支給、一部不支給、全部不支給のどれか。この段階で
支給が決定されれば、これで終了。
- ii)審査請求
労基署の結果が不支給だった場合には、審査を請求することができる。審査は
i)の組織とは全く別で、都道府県に1つずつある労基署の審査官(法律の専門家)が
審査を行なう。
審査の申請にあたっては、不支給の根拠にたいして反論したり、新しい証拠を出す。
しかし i)の段階での理由を詳しく教えてもらえないとか、誰が何を証言したか
わからないと、詳しい反論はむつかしい。調査官が審査内容をまとめ、調査会議に
かける。調査官は3〜4人で、企業の労務担当の人が勤めているらしい。ここで
支給が決定されれば、これで終了。結果は本人にのみ通知される。
セクシュアルハラスメントの場合、労災が認められた例は少ない。身ともに衰弱し、
集中力が落ちて研究できる状態ではなくなると、研究者として致命的だと思うが、
それでも労災の基準では"被害が弱すぎる"のだ。
ここでも労災申請が認められなかった場合には、不服申請(再調査申請)ができる。
- iii)再審査申請請求
この再審査は、ii)とは全く別の組織(全国で1つしかなく東京にある)でおこなわ
れる。つまり、全国からこじれにこじれた問題が集まってくる。この段階では、
これまでの聞き取り調書や双方が出した書類などの資料が製本されて冊子として
申請者に渡される。
(私の場合は厚さ数センチだったが、多い場合には何冊になることもある) つまり
ここで相手やとりまき、大学がどのように主張したのかを知ることができる。相手が
事実を否認したり周囲が偽証した証拠も手に入る。加害者の自筆サイン入りの書類も
綴じられているので、見るのが恐い場合には、サポーターとといっしょに見よう。
なお、この資料は申請者にしか渡されず、大学側には渡されない。結果も同じ。
再審査の場では、証拠に基づいてきっちり反論を行うことができる。
- iv)そのあと
iii)でも請求が認められなかった場合には、国家賠償か民事訴訟になる。
そのため、ii)やiii)になると弁護士に相談しつつ申請し、民事訴訟と並行して
行なう例もよくあるとのこと。i)は本人しか請求ができないが、ii)とiii)では
弁護士による代理申請もできる。
大学が発行した、証明できないという証明書
日付
xxx労働基準監督署長殿
大学学長名とその住所電話(略)
本大学所属教員xxxxから、労働者災害補償保険の療養補償給付請求の手続きが
ありましたが、下記理由により、「療養補償給付たる療養の給請求書」の記載事項に
事業主として証明できませんのでお届けします。
記
給付請求書(18)災害の原因及び発生状況について、請求人(氏名)がxxxx年x月に
セクシュルハラスメント被害を受けた事実及び請求人からの申し出によりxxxx年x月
からxx月まで休職(有給)を認めた事実については証明できますが、それ以外に
請求人が記載した事項については、確認していませんので証明できません。
よって、「療養補償給付たる療養の給付請求書」の(17)および事業主の証明欄に
記入することはできません。
(注:上の文章は、大学に管理責任はありませんよ、という意味ですね)
私はこの書類を見てうれしかったです。これまで私がセクシュアルハラスメントを受けたこと、
およびそのために休職したことはどこにも明記されていなかったからです。これだけでも
労災申請をした価値があったと思いました。
(付録)
なお、私立大学の場合には、大学内のセクハラ防止措置の監督は、労働局雇
用均等室に相談できるとのことでした。どこまで強く(細かく)指導してくれる
のかはわかりませんが、お役所から大学へ指導が行くとそれなりに効果がある
かもしれません。各都道府県ごとにあり、電話番号一覧は、労働省女性局の
「職場におけるセクシュアルハラスメントの防止にむけて」というパンフ
レットの最後に載っています。
(注:)「あそこは役に立たない」という声もあります。
労災申請は、裁判よりは楽ですが、それでも証拠やいつ誰が何をしたかという記述、
また自分の主張の論理をきっちりしておくことが必要です。友達や応援団の協力があれば
楽です。弁護士に依頼するなら、はじめから依頼した方があちこちに何度も説明する苦痛が少し
減ります。
戦うために知恵をつけるへ戻る
加藤万里子のトップページへ戻る