現代英語において,語強勢を決定づける一般的な規則を得ることは難しい.語強勢の位置を巡る問題の難しさは,英語の歴史に負っている.語強勢の位置は,古英語以前には Germanic Stress Rule (gsr) によって単純明解に決定されていたが,後期中英語以降にラテン・フランス借用語とともにもたらされた Romance Stress Rule (rsr) が定着するに及び,状況が複雑化した (cf. 「#200. アクセントの位置の戦い --- ゲルマン系かロマンス系か」 ([2009-11-13-1]),「#718. 英語の強勢パターンは中英語期に変質したか」 ([2011-04-15-1])) .そのほか,関連する語どうしの類推作用が働いたり,名前動後 (diatone) などの新しい強勢パターンも生まれた (cf. 「#861. 現代英語の語強勢の位置に関する3種類の類推基盤」 ([2011-09-05-1])) .このようにして,多様な原理に基づいた見かけ上の「例外」が蓄積し,共時的に強勢位置を決定する規則を立てることが難しくなった.
それでも,完璧は求めるべくもないが,なるべく例外を少なく保つようにして,いくつかの「一般原則」を立てる試みは続けられてきた.Carr (74--75) は,4つの一般原則を示している.
Principle 1: The End-Based Principle
第1強勢は,後ろから数えて,ultimate (ex. bóx), penultimate (ex. spíder, depárture), antepenultimate (ex. cínema, América) のいずれかに落ちる傾向がある.このことは,語強勢パターンが trochaic であることとも関係する.trochee とは,強勢音節の後にゼロ個以上の非強勢音節が続くパターンのことである.このような trochee の韻脚が,リズミカルに繰り返されるのが英語の韻律的特徴である.
Principle 2: The Rhythmic Principle
単語の末尾には最多で4つの非強勢音節が現われる可能性があるものの (ex. ungéntlemanliness), 単語の先頭に2つ以上の非強勢音節が現われることはない.それを避けるべく,先頭のいずれかの音節には強勢が落ちる (ex. Jàpanése, not *Japanése) .
Principle 3: The Derivational Principle
派生語においては,基体で主強勢のあった音節に副強勢が落ちる傾向がある.例えば chàracterizátion の第1音節に副強勢があるのは,基体の cháracterize (それ自体も cháracter からの派生)において第1音節に主強勢が落ちるからである.
Principle 4: The Stress Clash Avoidance Principle
隣り合う2つの音節の両方に強勢が落ちることは避けられる傾向がある.例えば,Principle 3 によれば *Japànése となるはずのところだが,これだと強勢音節が2つ続いてしまう.ここでは Principle 4 の原則が勝り,強勢音節を連続させない Jàpanése が得られることになる.
もとよりこれらの原則には少なからぬ例外がつきものである.また,原則間で衝突を起こすケースも少なくない.それぞれの原則は,下位規則を設けることにより,精度を高めていく必要があろう.しかし,この一般原則により,英語語彙の大多数の語強勢が説明されることも事実である.少なくとも英語の語強勢が無法であるとか,ランダムであるという極端な評価が不当であることは間違いない.
・ Carr, Philip. English Phonetics and Phonology: An Introduction. 2nd ed. Malden MA: Wiley-Blackwell, 2013.
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