新年明けましておめでとうございます.2015年です.今年も英語史に関する話題を長く広く紹介していきますので,どうぞよろしくお願いします.
新年最初の話題として,英語学習者向けに,母音字と母音の長短の対応に関する問題を取り上げる.英語の各母音字には,それぞれ「長」音と「短」音と呼ばれる発音が対応している.
Vowel letter | "Short" vowel | "Long" vowel |
<a> | [æ] | [eɪ] |
<e> | [ɛ] | [iː] |
<i>, <y> | [ɪ] | [aɪ] |
<o> | [ɑ/ɔ] | [oʊ] |
<u> | [ʌ] | [juː] |
単語のなかに現われる母音字は,典型的には強勢の有無や音節構造その他の条件に応じて短音か長音かが決まるが,その規則は複雑で例外も多いことから,英語学習者はこの区別を個々に習得することを期待される.ある語において母音字は長音に対応するが,そこに派生接辞などをつけて派生語を作ると母音字は変わらないのに発音は短音に化ける,といったことは英語語彙には普通に見られる.現代英語の母音字の短音と長音の区別は,英語史的には大母音推移を説明する際の格好の材料となるのだが,長短の対立を示す都合のよい派生語ペアの例を挙げるとなると,案外とすぐには思い浮かばない.そこで,いくつかの接尾辞別に長短の交替する派生語ペアを列挙している大名 (86--88) を参照して,典型例を以下に示したい.いずれもラテン語接辞に関わる語のペアである.
Suffix | Long | Short |
-al | crime | criminal |
grade | gradual |
nation | national |
nature | natural |
rite | ritual |
-(at)ive | derive | derivative |
evoke | evocative |
provoke | provocative |
-ic | athlete | athletic |
cone | conic |
lyre | lyric |
metre | metric |
microscope | microscopic |
mime | mimic |
satire | satiric |
tone | tonic |
volcano | volcanic |
state | static |
-ity | audacious | audacity |
breve | brevity |
divine | divinity |
extreme | extremity |
obscene | obscenity |
rapacious | rapacity |
sane | sanity |
serene | serenity |
sublime | sublimity |
vivacious | vivacity |
ただし,残念ながら例外も少なくない.-
ic について,
base も
basic も長音をもつ.
scene に対して
scenic は長音でも短音でも可.同様に,
phonic も
cyclic も長短いずれもありうる.また -
(at)ive について
create/
creative はいずれも長音読みだし,-
ity について
obese/
obesity の母音も長く読む.
-
al に関しては,
education/
educational,
erosion/
erosional,
motion/
motional,
occasion/
occasional,
operation/
operational,
region/
regional,
relation/
relational,
sensation/
sensational など,むしろ長短の交替を示さない例の方が多い.
最終的には個々に暗記しなければならないのだが,「規則や傾向などないのだから結局は個々に暗記」と「規則や傾向はあるが例外もあるから個々に暗記」とは大いに違うことだと思う.後者は言語学に立脚した知恵である.
・ 大名 力 『英語の文字・綴り・発音のしくみ』 研究社,2014年.
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