インドヨーロッパ語族の系統図は,全体的なものと部分的なものを含めて,indo-european family_tree の各記事で描いてきた.Miller (1) は,近年の印欧語比較言語学の知見と参考文献に基づき,大区分としてまず以下のような図を掲げている.
最も古く分岐したのは Hittite などを配下にもつ Anatolian で,次に Tocharian が分かれた(「#101. 比較言語学のロマン --- Tocharian と Anatolian」 ([2009-08-06-1]) 及び「#109. 比較言語学のロマン --- Tocharian (2)」 ([2009-08-14-1]) を参照).その後,Italo-Celtic とその他の塊 (Central IE) が分岐したという概観である.Central IE 以下も含めてやや詳細に描きなおすと,Miller (2) の示す以下のような系統図となる.
この系統図に従うと,英語を含む Germanic は,Balto-Slavic 及び Indo-Iranian と大結点を共有することになる.一方,英語が歴史的に濃密に接触してきた Italic や,近年英語との言語接触論で話題を集めている Celtic は,系統的にむしろ英語から遠いことになる.
この言語系統図は,語派ごとの分岐のタイミングを示している点で「#50. インドヨーロッパ語族の系統図をお遊びで」 ([2009-06-17-1]) のようなフラットな図よりは,「#1129. 印欧祖語の分岐は紀元前5800--7800年?」 ([2012-05-30-1]) の言語年代学に基づいた図に近い.この種の系統図は,各語派の歴史的な発展をたどって語派間の関係を把握するのにはすこぶる便利だが,言語接触が示されないという欠点がある.この問題については,「#999. 言語変化の波状説」 ([2012-01-21-1]),「#1118. Schleicher の系統樹説」 ([2012-05-19-1]),「#1236. 木と波」 ([2012-09-14-1]) でも触れてきたとおりである.Old English 以降,Middle English, Modern English は,系統的には比較的遠いこれらの Italic (及び Celtic)の諸言語から多大な影響を受けてきたことを考えると,英語史は,最上部の Tocharian A, B や Hittite などを除いたこの詳細図の大部分と,系統あるいは影響という軸で,何らかの関係をもってきたことになる.英語(史)を他の言語(史)に比して特別視するつもりはないが,英語という末端言語の目線からインドヨーロッパ語族の系統図を眺めるというのは,1つの意義ある眺め方ではないだろうか.
・ Miller, D. Gary. External Influences on English: From its Beginnings to the Renaissance. Oxford: OUP, 2012.
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