hellog〜英語史ブログ

#1319. 多数を表わす sixty[numeral][sir_orfeo]

2012-12-06

 Sir Orfeo の最初に,林檎の木の下で昼寝をして気の狂った Eurydice を連れ戻すために,多数の人々が駆けつけてくる場面がある.そこで,多数を表わすのに sexti という数が用いられている.Bliss 版,Auchinleck MS (ll. 89--90) より.

Kniȝtes vrn & leuedis also,
Damisels sexti & mo.


 対応する Harley 3810 の行は "Knyȝtys out went & ladyes also, / & damsellis fyfty & mony mo;" (ll. 86--87) ,Ashmole 61 の行は "Sexty knyȝtys & ȝit mo, / And also fele ladys þer-to," (ll. 77--78) とあり,数は60と50で揺れている.現代の我々にとって50はキリがよいが,60というのは中途半端の気味がある."and more" と付け足されているからには,厳密な数ではなく多数を表わす表現であると理解してよいが,この60という数は一体どこから出てきたのだろうか.
 中英語の詩ではこの種の適当な概数はよくあるように思われるので,それほど注目していなかったが,ちょうどこの箇所の "sixty" について,小論があるというので読んでみた.Tucker によると,中英語には多数を表わす "sixty" の用法の "plenty of evidence" (152) があるという.Tucker (153) は,Havelok, Sir Ferumbras, Otuel and Roland からの "sixty" およびその倍数の例を指摘しながら,次のように推測する.

'Fifty'---or 'half a hundred' would seem more natural to the modern reader: are these prevailing 'sixties' a relic of the old duodecimal reckoning familiar in the Scandinavian 'Long Hundred' of 120?


 MED には特に関連する記述はなかったが,OED では sixty, adj. and n の項で,B. n. 1b として次の句が登録されている.初例は1848年である.

b. like sixty, with great force or vigour; at a great rate. colloq. or slang. (Cf. FORTY adj. b.)


 そこに参照のある forty の項を見ると,"Used indefinitely to express a large number. like forty (U.S. colloq.): with immense force or vigour, 'like anything'. とあり,Shakespeare が初例となっている.
 中英語の「多数」の "sixty" と近現代の like sixty に連続性があるかどうかは疑わしいが,古今東西,特定の数のもつ含意というのは様々であり,興味深い.関連して,「#84. once, twice, thrice」 ([2009-07-20-1]) の thrice- 複合語を参照.

 ・ Bliss, A. J., ed. Sir Orfeo. 2nd ed. Oxford: Clarendon, 1966.
 ・ Tucker, Susie I. "'Sixty' as an Indefinite Number in Middle English." The Review of English Studies 25 (1949): 152--53.

[ | 固定リンク | 印刷用ページ ]

Powered by WinChalow1.0rc4 based on chalow