ここでは、私がこれまで観てきた映画の中で、特に心に残っている作品TOP5を紹介します。
感動・映像美・メッセージ性など、さまざまな観点から選びました。
『君の名は。』(2016年、新海誠監督)は、東京に住む男子高校生・瀧と、山間の町で暮らす女子高校生・三葉が、 夢の中で互いの体が入れ替わるという不思議な現象をきっかけに出会う物語である。最初は混乱しながらも、少しずつ 相手の生活に慣れ、メモやスマホを通じてコミュニケーションを取り合うようになる。しかし、ある日を境に突然入れ 替わりが途絶え、瀧は三葉の手がかりを求めて旅に出る。そこで明かされる真実と、時空を超えたふたりの絆が、観客 の心を深く揺さぶる。本作の魅力は、圧倒的な映像美と繊細な感情描写にある。新海監督ならではのリアルで美しい風景描写は、 東京の喧騒から山村の静けさまで鮮明に表現されており、画面を見るだけで物語に引き込まれてしまう。また、RADWIMPSによる音楽は、場面 の感情と完璧に調和し、印象的なシーンをさらに強く心に残す。私にとって『君の名は。』は、 「忘れてしまっても、心のどこかに残る誰か」というテーマを通して、運命や時間の不思議さ、そして人と人のつながりの 尊さを再確認させてくれた作品である。切なさと希望が交錯するラストには、何度見ても胸が熱くなる。まさに 「人生で一度は観るべき映画」のひとつである。
『そして父になる』(2013年、是枝裕和監督)は、血のつながりと家族の絆という根源的 なテーマを静かに、しかし深く問いかける作品である。物語は、エリート会社員の野々宮良多とその妻に、ある日突然「6年 前に病院で子どもが取り違えられていた」という衝撃の事実が告げられるところから始まる。今まで自分の子どもだと信じて 愛情を注いできた息子・慶多が、実は他人の子であり、血のつながった本当の息子は全く異なる家庭で育てられていたという 現実に、良多は大きく動揺する。この作品では、「父親とは何か」「家族とは何であるべきか」といった問いが繰り返し浮か び上がる。冷静で理性的な良多は、初めは血のつながりこそが本質だと考えるが、子どもたちとの関わりの中で、少しずつ自 らの価値観を揺さぶられていく。是枝監督ならではのドキュメンタリー的な演出手法により、子どもたちの自然な表情や家庭 の空気感が丁寧に描かれ、まるで現実の家族をのぞき見ているかのような感覚にさせられる。私にとって『そして父になる』 は、「家族」という概念の中にある曖昧さや多様性を改めて実感させてくれる作品であった。血のつながりだけでは測れない 愛情の重み、時間をかけて築かれる関係の深さが、静かな語り口の中に強く表現されている。観終わったあと、自分が大切に している人たちとのつながりについて、もう一度丁寧に考えてみたくなる、そんな余韻の深い一本である。
『聲の形』(2016年、山田尚子監督)は、いじめ、障害、孤独、赦しといった繊細で重いテーマに真正面から向き合ったアニ メーション映画である。物語は、小学生時代に聴覚障害を持つ転校生・西宮硝子をいじめていた主人公・石田将也が、成長後に 罪の意識に苦しみながら彼女と再会し、償いと再生の道を歩もうとする姿を描いている。作品は、視覚的にも非常に独特で、美 しく静かな背景描写と、登場人物たちの微細な表情が観る者の感情をじわじわと揺さぶる。会話の間、視線の動き、沈黙の重み ――そうした「言葉にならない感情」が丁寧にすくい取られており、タイトル通り「聲(こえ)」とは何かを深く問いかける構成 になっている。また、いじめを単なる悪として描くのではなく、加害者・被害者・傍観者それぞれの立場から人間の弱さや不完 全さを描き出しており、一面的な善悪の物語にとどまらない深さがある。私自身、『聲の形』を初めて観たとき、胸が締め付け られるような苦しさと、少しだけ救われるような優しさの両方を感じた。過去の過ちに向き合う勇気、言葉にできない気持ちを 伝えようとする努力、そして他者を受け入れようとする姿勢は、どれも現実の人間関係にも通じるものであり、鑑賞後しばらく 心に残り続けた。この作品は、ただ「感動する」だけではなく、自分の過去や人との距離を見つめ直すきっかけになる、非常に 静かで、しかし力強い映画である。
『万引き家族』(2018年、是枝裕和監督)は、東京の片隅で暮らす「家族」が、実は血縁ではなく、それぞれの事情で集まっ 寄せ集めであることが次第に明らかになっていくという物語である。貧困の中で生きる彼らは、万引きを生活の糧としながらも 、日々を笑い合い、支え合いながら過ごしている。一見して犯罪に手を染める「偽物の家族」のように見える彼らだが、作品が 進むにつれて、それぞれが抱える過去や孤独が浮かび上がり、むしろ本物の家族以上に深い絆で結ばれていることが伝わってく る。是枝監督は、本作を通して「家族とは血のつながりだけで定義されるものなのか」「制度や常識の外にある幸福は否定され るべきなのか」という問いを観客に投げかけている。社会からこぼれ落ちた人々の姿を、決して断罪せず、むしろ寄り添うよう な視点で描いた本作は、観る者の心に強く訴えかけてくる。私にとって『万引き家族』は、家族という枠組みの意味を根本から 揺さぶる作品であり、正しさとは何かを考えさせられる、静かで深い衝撃を残す映画だった。
『おくりびと』(2008年、滝田洋二郎監督)は、人の死を見送る「納棺師」という職業を題材に、死と向き合うことの意味、 生と死のつながり、そして人間の尊厳を静かに、丁寧に描いた感動作である。チェロ奏者としての夢に挫折した主人公・小林 大悟が、偶然の流れで納棺師という仕事に就き、周囲からの偏見や自身の葛藤を抱えながらも、次第にその役割の大切さと誇 りを見出していく過程は、観る者に死への恐れではなく、むしろ死を受け入れ、見送るという「通過儀礼」としての美しさを 教えてくれる。納棺の所作や手の動き一つひとつが儀式のように美しく、死者と遺された人々の間にある静かな対話が丁寧に 描かれており、涙を誘う場面も少なくない。死というテーマを扱いながらも、物語全体にはどこか温かさと優しさがあり、観 終わったあとには生きることの意味までも深く考えさせられる。私にとって『おくりびと』は、「人は死ぬからこそ、その生 がかけがえのないものになる」という当たり前の真実を、静かに、しかし確かな説得力で伝えてくれる忘れがたい一本である。