- 凸版印刷が新しく開発したシステム使って、美しい光悦謡本(こうえつうたいぼん)でくずし字を学びます。
- くずし字学習/読解システムとは。OCR・AI技術の現在について考えます。
- 慶應義塾大学の特別文庫で、古い時代の素敵な本をじかに見て、古典籍(江戸時代以前の本)の歴史に触れます。
江戸時代以前の文字を読む。古典や歴史が好きな人向けの話?
いえいえそうでもありません。OCR、AIってありますよね?
この技術で「くずし字」を読もうとしている人たちがいます。
文系の人にはそれがどんな技術なのか、理系の人には昔の字を読むのがどんなことかが、よくわからない。
そこが問題。そんなハテナを橋渡しして、人間の未来にAIはどうあるべきかを一緒に考えるのが目的です。
くずし字に興味がある人、AI技術に興味がある人、古典文学の研究者とシステム開発者がコラボしたこの教室で
あなたと機械を育てる実験授業を体験してみませんか?
日程
●日吉キャンパス(来往舎)
Lesson 1・2 ― 9月28日(土) 13:00~16:15
Lesson 3・4 ― 10月12日(土) 13:00~16:15
●三田キャンパス(斯道文庫)
Special lesson― 10月19日(土) 13:00~16:15
募集人数
申込み制・受講費 無料 / 30人
全日参加可能な方のみお申し込みください。
定員を超えたら抽選します。
慶應学部生対象
(慶應学部生以外で本授業にご興味のある方は、お問い合わせ下さい。)
この実験授業は、凸版印刷株式会社のOCR――文字を読み取る技術を応用した「くずし字」を読むシステムを使って行います。
授業では、「はじめの一歩」とあるように、くずし字初心者に向けて、江戸時代の美しい能の詞章が書いてある「謡本」を教材に、昔の文字を読みます。みなさんの読解を、この授業に合わせて調整された、新しいくずし字判読のシステムが助けてくれることになっています。
実験の一番の目的は、くずし字を上手に読めることではなく(それができたらもちろん大成功ですが)、システムに興味がある人とくずし字に興味がある人が、一つの場に集い、こうしたシステムがどうあるべきかを考えることにあります。
おそらく、文字を判読すること、文章を読むということ、本とは何かを知ることが、議論を進める鍵となることでしょう。
それ故に、今回の企画では、普段はガラスケース越しにしか見られない江戸時代以前の本を直接見る貴重な機会を設けました。時代を生き抜いた本、「古典籍」が放つ何か。画像には写らないけれど人間が感知できる沢山の「情報」を、本という存在から感じ取ってほしいと思います。
最先端のシステムを夢の様に語るのではなく、あるいは、悪夢のように厭うのではなく、AIの現実を見て、使って、それぞれの立場で、AIを使った作業(勉強や教育、研究)の未来を考える機会にしたいと願っています。(津田眞弓)
②「くずし字」とは? 昔の字を読む意義とは?
我々が普段使用している平仮名は明治33年「小学校令施行規則」第一号表に基づく「正体仮名」と呼ばれるものです。 かつてはそれ以外にも「変体仮名」という平仮名が用いられていました。 「か」を例にとれば、現行の「か」は「加」をくずしたものですが、ほかに「可」をくずした「変体仮名」も使われていたのです。 いわゆる「くずし字」とは「行草書体の文字」のことで、「平仮名」(「正体仮名」+「変体仮名」)と「漢字」を含みます。 これらはほんの百年前までは普通に使われていたものですが、現代の我々は「正体仮名」と「楷書体の漢字」をもっぱら使うため、「くずし字」にはなかなか馴染みがありません。 しかし、これらが読めれば日本に数多く残されている生の資料(本や手紙など)を自分の力で解読することができるようになります。 web上で様々な生の資料が公開されはじめ、居ながらにしてそれらに触れることができる今、この技能を習得するメリットはますます大きくなってきています。(宮川真弥)
③システム開発者からみなさんへ
「くずし字OCR」は、現代人には難読になってしまった古典籍・古文書を、コンピュータの力を借りて手軽に読み解くことができるようにするための試みです。 近年のAIの急速な進歩と普及によって初めて可能になった本技術について今回はポイントを解説します。AIでくずし字が読める=すごい!ではなく、人間にとって必要な道具のあるべき姿とは? こうした技術の出現が社会になにをもたらすか? 等について考えるきっかけにしていただければ幸いです。(大澤留次郎)
④教材の光悦謡本とは?
日本で最も美しい印刷本とも言われる「光悦謡本(こうえつうたいぼん)」は、江戸時代極初期に京都の豪商角倉素庵(すみのくらそあん)が刊行した、唐紙(からかみ)と呼ばれる豪華な装飾紙を用いた木製活字本です。謡本は能の練習用の台本で、光悦謡本には複数の種類があります。今回は読みやすい色替り本を用いて「くずし字」を学びます。 くずし字は時代や作品のジャンルなどによって違いがあります。斯道文庫見学会では、くずし字の様々を、多くの古典籍の実物に触れながら確認していただきます。(佐々木孝浩)
■宮川真弥(みやがわしんや、天理大学附属天理図書館司書研究員)
専門は、日本近世文学、北村季吟研究。「Koji 日本語史料のための軽量マークアップ言語」を橋本雄太氏と共同開発。
■大澤留次郎(おおさわとめじろう、凸版印刷株式会社)
凸版印刷株式会社情報コミュニケーション事業本部、各種システムの企画・開発・事業化に従事。2015年より「くずし字OCR」システムを開発中。
■佐々木孝浩(ささきたかひろ、慶應義塾大学附属研究所斯道文庫 文庫長)
専門は、日本書誌学、和歌文学。『日本古典書誌学論』(笠間書院、2016)
■津田眞弓(慶應義塾大学経済学部教授)
専門は、日本近世文学、江戸戯作研究。『山東京山年譜稿』(ぺりかん社、2004)