hellog〜英語史ブログ

#6333. 学術 outreach 活動には share が似合う[outreach][helkatsu][etymology][semantic_field][semantich_change]

2026-08-29

 「#6324. アウトリーチ活動とは何か? --- 英単語 outreach の発展」 ([2026-08-20-1]) で触れたように,私や周囲の人々による「英語史をお茶の間に」の活動,通称「hel活」 (helkatsu) は,英語史という学問分野に関するアウトリーチ活動である.
 学術的な話題に関するアウトリーチ活動の根幹には,share 「シェア」の発想があるのではないかと,私は考えている.share は「分け前,取り分」という名詞であるとともに「分ける,分かち合う,共有する,共に用いる」を意味する動詞でもある.アウトリーチの文脈で「知識や知恵のシェア」という場合には,日本語の「お裾分け」の語感が近いように感じている.
 share の語源を遡ると,おおもとは印欧祖語の *(s)ker- "to cut" にたどり着く.そこから,「切り分ける;切り分けられた断片」ほどに語義が展開し,現代的な名詞や動詞の意味に到達した.同音異綴字異義語の shear 「大ばさみ(で刈る)」も同根である.
 ただし,おもしろいことに古英語 sċearu は「刈り込み;剃髪」などの比較的特殊な意味で,現代的な「分け前,シェア」的な語義が発達するのは中英語期になってからのことだ.私たちが注目しているアウトリーチに直接関連する語義は,それなりに新しいものということになる.
 では,古英語では「分け前,シェア」という「意味の場」は存在しなかったのかといえば,そうでもない.別の単語 dǣl (名詞)や dǣlan (動詞)がその意味を担っていた.現代でいうところの deal である.この語は現代では「取引;取り扱い」の語義が前面に出てきている感があるが,原義ははほぼ share と重なるといってよい.語根も share とは異なるとはいえ,印欧祖語 *dail- "to divide" に遡るとされ,ここにはやはり「分け与える」の発想が入っている.中英語以降,名詞も動詞も独自の語義を発展させて現代に至るが,原義に比較的近いところを残しているものとして dealer 「(トランプのカードを)配る人」,a great deal of などの表現における「一部,部分」を挙げておこう.なお,「取引」関連の語義の発達は,取引や交渉というものが,2者が同じ目的を共有する作業だからだろう.
 ここまでのところを考えると,古英語で deal が担っていた意味の場を,中英語では share が担当するようになった,という風に見える.そして,この英語本来語ペアの動きに介入して来ているように見えるのが,ラテン語由来にしてフランス語経由で中英語期に借用されてきた part という単語だ.「分け前;一部」といった先の2語と共通する語義を持っており,語根こそいずれとも異なるが,起源を遡ると印欧祖語 *perə "to grant, allot" に行き着く.根本的な発想はここでも「分け与える」なのだ.現代英語で part の関連語としては,participate 「参加する」や partake 「参加する;共にする」にその原義が感じられる.
 share, deal, part の3つの基本語は,英語史を通じてそれぞれ守備範囲を調整しながら現代まで生きながらえてきたわけだが,いずれも発想の根幹に共通のものがあるのがおもしろい.アウトリーチ活動と相性のよい「お裾分け」系の語彙を構成している.
 関連して,hellog 「#4941. partnerparcener」 ([2022-11-06-1]) および「#524. dealpart のイメージは「分け与えて共有する」」を参照.

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