去る4月25日(土)に,朝日カルチャーセンター新宿教室にて今年度の初回となるオンライン講座を開きました.春期クール全体のタイトルは「歴史上もっとも不思議な英単語 語源を探って古英語・中英語原文の世界へ!」です.初回となる今回は,「knight を探って中英語原文の世界へ」と題して西洋中世を理解するうえで重要な文化語 knight に迫りました.主に中英語原文から,この単語を含む具体的な箇所を抜き出して,文脈を押さえながら読みことで,knight の理解を深めようという趣旨です.参考としたテキストは,市河三喜・松浪有(著)『古英語・中英語初歩〈新装復刊〉』(研究社,2026年)です.
今回の講座でまず注目したのは,knight という語の現代での語感です.「騎士」や「勲爵士」といった高潔なイメージを纏っていますね.しかし,古英語期までさかのぼれば,その原義は単なる「少年」 (boy) や「召使い」 (servant) にすぎませんでした.この意味変化の背景には,「従者」たちが軍事的な功績を立て,社会的な地位を獲得していくという姿が映し出されています.knight がたどってきた意味上の「出世」についても,詳しく扱いました.
講座の中盤では,実際に中英語の原文を味読しました.Chaucer の The Canterbury Tales の冒頭に登場する騎士の描写 "A KNYGHT ther was, and that a worthy man" をはじめとして,いくつかの原文を紹介しました.語源辞典で単語を引くだけでは味わえない,原文の文脈に照らして初めて感じられる knight に迫ることができたと思います.
さらに,この単語の綴字と発音の関係についても深掘りしました.現代の knight に含まれる黙字 <k> や <gh> は,かつてはしっかりと発音されていました.古英語期の綴字は cniht であり,[knɪçt] のように発音されていたのです.17世紀頃に語頭の [k] が脱落し,語中の喉を鳴らすような [ç] 音も消失しましたが,綴字だけが取り残された結果,現在の不規則な姿となりました.講座では,歴史上確認される knight の綴字が63種類にも及ぶことを紹介し,標準化以前の英語の多様性を視覚的に提示しました.
次回の講座は,5月23日(土)に「again を探って中英語原文の世界へ」と題して,knight とは趣が異なりますが,やはり興味深い単語に迫ります.次回も『古英語・中英語初歩〈新装復刊〉』を参照します.ご関心のある方は,ぜひ朝カルのこちらの公式ページよりお申込みいただければ.
・ 市河 三喜,松浪 有 『古英語・中英語初歩〈新装復刊〉』 研究社,2026年.
・ 寺澤 芳雄(編集主幹) 『英語語源辞典』新装版 研究社,2024年.
・ 唐澤 一友・小塚 良孝・堀田 隆一(著),福田 一貴・小河 舜(校閲協力) 『英語語源ハンドブック』 研究社,2025年.
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