hellog〜英語史ブログ

#6178. なぜ比較級接尾辞 -er に母音 e が含まれているのか?[oed][adjective][adverb][comparison][oe][suffix][germanic][epenthesis]

2026-03-27

 「#6170. 形容詞の比較級 -er と最上級 -est の起源を求めて」 ([2026-03-19-1]) 以来,-er とその周辺の起源と発達に関心を寄せている.現代英語の比較級を作る -er には,形容詞にせよ副詞にせよ,A と B と仮に名付けられている2つのゲルマン祖語のタイプに遡るとされる.
 古英語の段階までに,形容詞の比較級接尾辞としては -ra が,副詞の比較級接尾辞としては -or が確立していたが,現代の -er は少なくとも一般的ではなかった.しかし,中英語になると,いずれの品詞についても比較級接尾辞は現代に直接つらなる -er が一般的になった.この一般化の過程に何があったのか.とりわけ形容詞の比較級接尾辞において r の前に e という母音が入ることになったのは,どのような経緯でなのだろうか.
 OED-er (SUFFIX3) の注記に,次のような記述があった.

Old English betera better adj. apparently preserves -era, but the word is an unusual case; compare the discussion at that entry. Later forms with epenthetic vowel, as -ere, -er develop in Middle English, but are rare in Old English.

Attested regularly formed adverbs continue type (ii) of the suffix, preserving the vowel before r in the final syllable (compare heardor harder), with very occasional reduction to -er in Old English. The adverbial and adjectival comparative endings merge in the course of Middle English.


 この記述によると,形容詞の比較級接尾辞における e は "epenthetic vowel" とある.これは母音挿入の事実を述べているだけで,なぜどのように挿入されたのかについては述べていない.直前に挙げられている,betera に珍しく残されている e からの影響である,とも読めなさそうだ.そうすると,次の段落で言及されている副詞の比較級接尾辞 -or やその弱形である -er が,形容詞にとっての類推の基盤となった,という考え方があり得ることになろうか.
 これまでの記事で,形容詞の比較級接尾辞の B タイプは,古い副詞語尾に由来するかもしれないとの仮説に触れた (Krahe 1965: §56) .また,副詞の最上級接尾辞の B タイプが,形容詞の対応する要素の中性単数対格の形にすぎないという記述もみた (Campbell §670; p. 277) .形容詞と副詞の間で類推の行き来が頻繁にあり得た前史を想定すると,中英語にかけての -er の一本化にも同じような行き来(今回は副詞から形容詞へ)があったと考えるのは,十分に自然なように思われる.

 ・ Campbell, A. Old English Grammar. Oxford: OUP, 1959.
 ・ Krahe, H. Germanische Sprachwissenschaft. II, Formelehre. Berlin: de Gruyter, 1965.

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