「#5385. methinks にまつわる妙な語形をいくつか紹介」 ([2024-01-24-1]) と「#5386. 英語史上きわめて破格な3単過の -s」 ([2024-01-25-1]) で触れたように,近代英語期には methoughts という英文法史上なんとも珍妙な動詞形態が現われます.過去形なのに -s 語尾が付くという驚きの語形です.
今回は,methoughts の初期近代英語期からの例を EEBO corpus より抜き出してみました(コンコーダンスラインのテキストファイルはこちら).10年刻みでのヒット数は,次の通りです.
| ALL | 1600s | 1610s | 1620s | 1630s | 1640s | 1650s | 1660s | 1670s | 1680s | 1690s |
METHOUGHTS | 184 | | | | 1 | 6 | 6 | 18 | 37 | 75 | 41 |
15--16世紀中には1例も現われなかったので表中には示しませんでした.17世紀に入り,とりわけ後半以降に分布を伸ばしてきています.EEBO で追いかけられるのはここまでですが,この後の18世紀以降の分布も気になるところです.
コンコーダンスラインを眺めていると,
methoughts は主節を担うというよりも,すでに評言節 (
comment_clause) として挿入的に用いられている例が多いことが窺われます(これ自体は,対応する現在形
methinks の役割からも容易に予想されますが).
また,
methoughts の近くに類義語というべき
seem が現われる例もいくつか確認され,評言節からさらに発展して,副詞程度の役割に到達しているとすら疑われるほどです.
・ 1676:
methoughts she
seem'd though very reserv'd, and uneasie all the time i entertain'd her
・ 1678:
methoughts my head
seemed as it were diaphanous
・ 1679: nay, they so beautiful, so fair did
seem,
methoughts i took and eat'em in my dream
・ 1695: yet
methoughts you
seem chiefly to place this vacancy of the throne upon king iames's abdication
英語史上短命に終わった,きわめて珍妙なこの語形から目が離せません.
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