hellog〜英語史ブログ

#4804. vernacular とは何か?[terminology][sociolinguistics][vernacular][world_englishes][diglossia]

2022-06-22

 昨日の Voicy 「英語の語源が身につくラジオ (heldio)」で,立命館大学の岡本広毅先生と対談ならぬ雑談をしました.「#386. 岡本広毅先生との雑談:サイモン・ホロビンの英語史本について語る」です.



 昨秋にも「#173. 立命館大学,岡本広毅先生との対談:国際英語とは何か?」と題して対談していますので,よろしければそちらもお聴きください.
 さて,今回の雑談は,Simon Horobin 著 The English Language: A Very Short Introduction を巡ってお話ししようというつもりで始めたのですが,雑談ですので流れに流れて vernacular の話しにたどり着きました.とはいえ,実は一度きちんと議論してみたかった話題ですので,おしゃべりが止まらなくなってしまいました.
 ただ,偶然にこの話題にたどり着いたわけでもありません.岡本先生は立命館大学国際言語文化研究所のプロジェクト「ヴァナキュラー文化研究会」に所属されているのです! Twitter による発信もしているということで,こちらからどうぞ.
 vernacular は英語史や中世英語英文学を論じる際には重要なキーワードです.さらに21世紀の世界英語を論じるに当たっても有効な概念・用語となるかもしれません.hellog でも真正面から取り上げたことはなかったので,今回の岡本先生との雑談を機に,これから少しずつ考えていきたいと思います.
 英語史の文脈で出てくる vernacular は,中世から初期近代にかけて公式で威信の高い国際語としてのラテン語に対して,イングランドの人々が母語として日常的に用いていた言語としての英語を指すのに用いられます.要するに vernacular とは「英語」のことを指すわけですが,常にラテン語との対比が意識されているものとしての「英語」を指すというのがポイントです.diglossia の用語でいえば,H(igh variety) のラテン語に対する L(ow variety) の英語という構図を念頭に置いた L のことを vernacular と呼んでいるわけです.
 いくつか辞書を引いて定義を見てみましょう.

noun
1 (usually the vernacular) [singular] the language spoken in a particular area or by a particular group, especially one that is not the official or written language
2 [uncountable] (technical) a style of architecture concerned with ordinary houses rather than large public buildings (OALD8)


noun [C usually singular]
1. the form of a language that a regional or other group of speakers use naturally, especially in informal situations
   - The French I learned at school is very different from the local vernacular of the village where I'm now living.
   - Many Roman Catholics regret the replacing of the Latin mass by the vernacular.
2. specialized in architecture, a local style in which ordinary houses are built
3. specialized dance, music, art, etc. that is in a style liked or performed by ordinary people (CALD3)


noun [countable] [usually singular]
the language spoken by a particular group or in a particular area, when it is different from the formal written language (MED2)


n 土地ことば,現地語,《外国語に対して》自国語;日常語;《ある職業・集団に特有の》専門[職業]語,仲間ことば;《動物・植物に対する》土地の呼び名,(通)俗名(=~ name);土地[時代,集団]に特有な建築様式;《建築・工芸などの》民衆趣味,民芸風.(『リーダーズ英和辞典第3版』)


 その他『新英和大辞典第6版』で vernacular の見出しのもとに挙げられている例文が,英語史の文脈での典型的な使い方となります."Latin gave place to the vernacular." や "In Europe, the rise of the vernaculars meant the decline of Latin." のように.また,『新編英和活用大辞典』からは "English has given place to the vernacular in that part of Asia." という意味深長な例文が見つかりました.
 上記「ヴァナキュラー文化研究会」の Twitter の見出しからも引用しておきましょう.

《ヴァナキュラー》とは権威に保護されていないもの、日常生活と共に動く俗なもの。非主流・周縁・土着。本研究は、変容し生き続ける文化の活力に迫る。


 vernacular とは何か,今後も考え続けていきたいと思います.

 ・ Horobin, Simon. The English Language: A Very Short Introduction. Oxford: OUP, 2018.
 ・ Horobin, Simon. How English Became English: A Short History of a Global Language. Oxford: OUP, 2016.

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