hellog〜英語史ブログ

#4656. 英語に関するチグハグ12本[chiguhagu_channel][khelf][sobokunagimon][hel_education]

2022-01-25

 内輪の話しで恐縮ですが,慶應義塾大学文学部英米文学専攻の私の英語史ゼミを中心とするフォーラム khelf (= Keio History of the English Language Forum) では,オンライン授業期となったこの1年半ほど,チャットツールを用いて「ちぐはぐチャンネル」 (chiguhagu_channel) なる遊び(いえいえ,重要な学術的交流です)を実践しています.
 メンバーの皆に「英語の素朴な疑問を教えてください」と投稿を呼びかけても,すでにネタが尽きており,なかなか新しいものが出てきません.しかし「日々の英語の学びなどで気づいた様々なチグハグ案件を教えてください」と呼びかけ方を変えると,少しは出てきます.日英語のチグハグでも,英語内部でのチグハグでもよいですし,何なら全然チグハグでなくても可,という自由な発言の機会です.
 いろいろとおもしろいものが出てきているのですが,皆から寄せられた大事な「チグハグ案件」をここで直接公開するわけにもいきませんので,私自身がこの1ヶ月ほどで書きためてきたチグハグをいくつか披露したいと思います.たいしたものではありませんが,こんなノリでネタが少しずつ集まってきているということです.
 このような素朴な疑問の蓄積が,しばしば本ブログや Voicy の「英語の語源が身につくラジオ」で取り上げる話題のソースとなっています.

child は2重母音なのに,children は短母音.同じく,wild は2重母音なのに,wilderness は短母音.ちぐはぐチャンネル!


規範文法では,2重比較級の worser はダメ.しかし同じく2重比較級の lesser は OK.ちぐはぐチャンネル.


sometimes の -s は属格(所有格)語尾に由来する.some times の -s は複数語尾に由来する.ちぐはぐチャンネル!


・ well written: (本が)うまく書かれている
・ well read: (人が)本をよく読んでいて博学である
同じ過去分詞形容詞なのに.ちぐはぐチャンネル!


・ 普通の英語の先生:英語では r と l は明確に区別されますので気をつけましょうね.rice/lice, right/light など間違えたら大変ですよ.
・ 英語史を知っている英語の先生:ネイティヴだって混乱していたようですよ.coriander は古くは coliandre だったし,marble も同じように marbre だったので.
ちぐはぐチャンネル!


調子に乗ってもう1つ.
・ 普通の英語の先生:英語では v と b は明確に区別されますので気をつけましょうね.very/berry, vest/best など間違えたら大変ですよ.
・ 英語史を知っている英語の先生:ネイティヴだって混乱していたようですよ.have, live の古英語の原形は habban, libban だったので.
ちぐはぐチャンネル!


目下,話題のにっくき「オミクロン」.ご存じの通り,ギリシア・アルファベットの第15文字 ο は "o-miron" (オ・ミクロン)と呼ばれ「小さい o」(=短母音の o)の意.一方,最後の第24文字 ω は "o-mega" (オ・メガ)は「大きい o」(=長母音の o)の意.
 では,これを前提に英語の話しに移ります.英語では長母音の「オー」は,歴史的に <oo> で綴られ [o:] と発音されてきました.大母音推移により [o:] > [u:] となったために food, moon, pool では [u:] と発音されます.英語版の「オメガ発音」と呼んでおきましょう.
 ところが,中には [o:] > [u:] となった後に,発音が短母音化、いわば「ミクロ化」して [ʊ] となったものがあります.それが、good, look, took のタイプです.英語版の「オミクロン発音」と呼んでおきましょうか.
 ということで、まとめると.
・ オメガ発音: food, moon, pool, etc.
・ オミクロン発音: good, look, took, etc.
 新型コロナウィルスが「オメガ」まで行かないことを願って、ちぐはぐチャンネル!


16--17世紀の英語:
・ 発音は大母音推移 (Great Vowel Shift) により大変化を遂げようとしていた
・ 綴字は標準化の機運に乗り,古い発音に忠実なままに固定化しようとしていた
これが現代の spelling-pronunciation gap の不幸な起源.発音と綴字がたどったチグハグな運命.


皆さん both と either は反意語だと思いますか? 確かに both A and B は「AとBと両方」で,either A or B は「AかBかどちらか」と学んだはずです.いかにも反意ですよね.しかし,
・ Unfortunately I was sitting at the table with smokers on both sides of me.
・ Unfortunately I was sitting at the table with smokers on either side of me.
という2つの文は同義なのです.ちぐはぐチャンネル!


形容詞 free に対応する副詞としては単純副詞の free と,-ly 副詞の freely がありますね.
・ to travel free: 無料の旅行,ただ乗り
・ to travel freely: 時間も場所も自由で,制限なしの旅行
どちらも好きですけどね.チグハグ!


こういうの困りますねぇ.
・ conceive - conceit - concept - conception
・ deceive - deceit - decept - deception
・ receive - receit - receipt - reception
・ perceive - perceit - percept - perception
異なる時代にラテン語から借りたり,フランス語から借りたり,個々別々の動きをしてきたから,後から整理してみると,こんな風になっちゃうわけです.


ある言語が他言語(文化)と接触し大きな刺激を受けたときに,大規模な語彙拡充が起こることがあります.その際に,そのまま他言語から語を借用する「オープン借用」と,翻訳して取り込む「むっつり借用」という2つの方法があり得ます.言語や時代によって,この方針がおよそきれいに分かれます.
・ 「オープン借用」の方針:フランス語より影響を受けた中英語,ラテン語より影響を受けた初期近代英語,漢語より影響を受けた上代以降の日本語
・ 「むっつり借用」の方針:ラテン語より影響を受けた古英語,ラテン語の影響を受けた近代期のドイツ語,西洋語より影響を受けた明治期の日本語
2つの方針を巡って,各々の言語・時代で何がどう異なっていたのか? ちぐはぐチャンネル.


 以上12件につき,お粗末様でした.

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