「#4569. because が表わす3種の理由」 ([2021-10-30-1]) でみたように,because という1つの接続詞に「現実世界の読み」「認識世界の読み」「発話行為世界の読み」の3種があり,英語話者はそれらを半ば無意識に使い分けていることをみた.3つの世界の間を自由自在に行き来しながら,同一の接続詞を使いこなしているのである.
まったく同じことが,さらに基本的な接続詞である and についてもいえるという.Sweetser (87--89) より,3つの世界の読みを表わす例文を引用しよう.
(1a) John eats apples and pears.
(1b) John took off his shoes and jumped in the pool.
(2) Why don't you want me to take basketweaving again this quarter?
Answer: Well, Mary got an MA in basketweaving, and she joined a religious cult. (...so you might go the same way if you take basketweaving).
(3) Thank you, Mr Lloyd, and please just close the door as you go out.
(1a) と (1b) は,and の最も普通の解釈である「現実世界の読み」となる例文である.(1a) と (1b) の違いは,前者はリンゴと梨を単純に接続しており,通常の読みでは順序を反転させても現実の命題に影響を与えないのに対して,後者は and で結ばれている2つの節の順序が重要となる点だ.(1b) においては,ジョンは靴を脱いだ後にプールに飛び込んだのであり,プールに飛び込んだ後に靴を脱いだのではない.この and は,時間・順序の観点から現実と言語の間の図像性 (iconicity) を体言しているといえる.だが,現実世界における何らかの接続が and によって示されている点は,両例文に共通している.
(2) では,答えの文においてコンマに続く and が現われている.メアリーは楽ちん分野の修士号を取り,(私が考えるところでは,それが原因となって)カルト宗教団体に入団した,という読みとなる.メアリーは楽ちん分野の修士号を取り,その後でカルト宗教団体に入団した,という時間的順序は,確かに (1b) と同様に含意されるが,ここでは時間的順序に焦点が当てられているわけではない.むしろ,話者が2つの節の間に因果関係をみていることが焦点化されている.話者は(コンマ付き) and により認識上のロジックを表現しているのだ.
(3) では,感謝と依頼という2つの発話行為 (speech_act) が and (やはりコンマ付き)で結びつけられている.ここでは現実世界や認識世界における何らかの接続が言語化されているわけではなく,あくまで発話行為の接続が表わされている.
前回の because のケースに比べると,and の「3つの世界の読み」の区別は少々分かりにくいところがあるように思われるが,それぞれ and の「意味」が異なっていることは感じられるのではないか.Sweetser の狙いは,1つの接続詞で「3つの世界の読み」をまかなえることを because だけではなく and でも例証することによって,この分析の有効性を高めたいというところにあるのだろう.
・ Sweetser, E. From Etymology to Pragmatics. Cambridge: CUP, 1990.
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