hellog〜英語史ブログ

#4268. -ly が2つ続く副詞 -lily は稀である[bnc][adverb][suffix][adjective][productivity][-ly][haplology]

2021-01-02

  接尾辞 -ly の周辺については -ly の多くの記事で扱ってきた.歴史的にみても話題が豊富な接尾辞で,「#1032. -e の衰退と -ly の発達」 ([2012-02-23-1]) や「#1189. 初期近代英語における -ly 副詞の規則化の背景」 ([2012-07-29-1]) などで,そのおもしろさを紹介してきた.
 「#40. 接尾辞 -ly は副詞語尾か?」 ([2009-06-07-1]) で解説してきたように,現在では生産的な副詞語尾と考えられている接尾辞 -ly は,もともとは形容詞を作る接尾辞だった.その証拠に friendly, scholarlywomanly, daily, weekly, yearly などは主に形容詞として用いられる.しかし,これらの -ly 形容詞から対応する副詞を作るにはどうすればよいかと問われたら,答えられるだろうか.副詞語尾としての -ly をさらに加えて,friendlily などとするのだろうか.
 きわめて生産的な副詞を作る接尾辞 -ly のことである,理屈上は確かに friendlily 等の形はあり得るし,事実,辞書に登録されているものもある.しかし,実際上は滅多にお目にかからない稀な語形である.形容詞と同形の friendly で代用したり,in a friendly manner などと迂言的に表現するのが普通だ./-lɪli/ と類似音が続くと調音的に語呂が悪い (cacophony) のが理由と思われる.結果として,haplology (重音脱落)が生じ,1つの -ly にまとめられてしまうのだろう(cf. 「#2362. haplology」 ([2015-10-15-1])).
 -lily が稀であることは現代英語コーパスでも簡単に確認できる.例えば,BNCweb で "*l[i,y]ly_{ADV}" として単純検索してみると,106件が挙がってくる.各語形と頻度を列挙すると,slyly (90), jollily (4), sillily (4), surlily (2), beastlily (1), ghostlily (1), oilily (1), possiblily (1), seemlily (1), uglily (1) となる.最も頻度の高い slily の基体となる形容詞は sly /slaɪ/ であり,その ly はあくまで語幹の一部にすぎないため,今回の関心の対象から外してよい.2位タイの jollily, sillily についても,基体の形容詞 jolly, silly に含まれる -ly は,共時的にはおそらく接尾辞と感じられていないのではないか(語源的にいえば silly の -ly は確かに目下注目している接尾辞に由来するのだが).possiblily については,文脈を確認すると名詞 possibility のミススペリングであることが分かり,これも考慮から外してよい.結果として,-lily 副詞はきわめて稀であることがわかるだろう.

[ | 固定リンク | 印刷用ページ ]

Powered by WinChalow1.0rc4 based on chalow