沖森（編著）『日本語史概説』の4章「語彙史」に，日本語のルーツの問題に踏み込んだ「日本語語彙の層」に関する話題が提供されている．安本美典と大野晋の各々による「基礎語彙四階層」の説が紹介されており，表の形式でまとめられているので，そちらを掲げよう．

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│      │            安本美典            │  大野 晋   │
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│第一層│古極東アジア語の層              │タミル語    │
│      │                                │            │
│      │（朝鮮語・アイヌ語・日本語）    │（南まわり）│
│      │                                │            │
│      │文法的・音韻的骨格              │縄文時代    │
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│第二層│インドネシア・カンボジア語の層  │タミル語    │
│      │                                │            │
│      │（基礎語彙）                    │（北回り）  │
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│第三層│ビルマ系江南語の層              │            │
│      │                                │            │
│      │（身体語・数詞・代名詞・植物名）│漢語の層    │
│      │                                │            │
│      │列島語の統一                    │            │
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│第四層│中国語の層                      │            │
│      │                                ├………………┤
│      │（文化的語彙）                  │印欧語の層  │
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　安本は第一層を「北方由来説」に立脚して古極東アジア語の層とみている．続いて，第二層を「南方由来」に従って基礎語彙の層ととらえている．第三層にはビルマ系江南語の層を据え，これにより列島日本語が完成したとみなしている．そして，第四層が中国語から借用された文化語彙の層であるという立場だ．
　一方，大野は論争の的になったタミル語説を提唱しながら，第一層は南まわり，第二層は北まわりでタミル語彙が供給されたと論じている（安本説と北方・南方の順序が異なることに注意）．その後，第三層として文化語彙を構成する漢語の層を認め，さらに近世以降の西洋諸語からの借用語を念頭に，印欧語の層を設定している．
　日本語語彙を作り上げてきた歴史的な言語層に関する二つの説を眺めていて，英語の場合はどうだろうかと関心が湧いた．およそ古い層から順に，印欧祖語，ゲルマン語，ラテン語，ケルト語，古ノルド語，フランス語，ギリシア語，その他の諸言語といったところだろうか．曲がりなりにも日本語と英語の語彙史を比較できてしまう点がおもしろい．語彙史に関しては，両言語はある程度似ているといえるのだ．関連して「#1526. 英語と日本語の語彙史対照表」 ([2013-07-01-1]) も参照．

　・ 沖森 卓也（編著），陳 力衛・肥爪 周二・山本 真吾（著）　『日本語史概説』　朝倉書店，2010年．

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