hellog〜英語史ブログ

#3575. イギリスの貨幣制度の略史[history][monetary_system]

2019-02-09

 現在,イギリスの通貨は十進法の pound (?)に基づいている.1 pound = 100 pence という関係になる.この貨幣制度になったのは比較的新しく,1971年のことである.それより前の時代には,ノルマン征服から続く 1 pound = 20 shillings = 240 pence という体系が用いられていた(さらに遡ったアングロサクソン時代の通貨単位は penny のみ).shilling(s)s. として,penny/pence は古代ローマの銀貨 danarius/danarii に由来する d. として略記された.?4. 5 s. 6 d. (= four pounds five shillings six pence) の如くである.
 さらに小さい単位として,farthing (= 1/4 penny) や half-farthing (= 1/8 penny) もあったが,1960年に廃止されている.
 計算上の単位と実際の貨幣とは別物である.shilling は貨幣として鋳造されたのは Henry IV の治世下の1504年のことであり,それより前には計算上の単位にすぎなかった.計算上の単位といえば,中世・近世には mark もあった.1 mark = 2/3 pound = 13 s. 4. d という単位である.
 このように歴史的には様々な貨幣単位があって複雑だったが,貨幣の種類そのものもヴァリエーションが豊富である.川北 (付録 68--67) より,主たるものを挙げてみよう.

 グロート貨:13世紀以降用いられた4ペンス相当の貨幣.エリザベス1世時代には6ペンス貨に代えられた.のちにチャールズ2世が復活し,18世紀半ばまで流通した.19世紀前半にも一時復活した.
 フロリン金貨:1337年に,エドワード3世によりフィレンツェの貨幣をモデルに造られた.価値は3シリング相当.フロリンの単位は,1849年に作られた2シリング相当の銀貨にも用いられた.
 ノーブル金貨:1344年にエドワード3世がフロリン金貨に代えて作らせた.価値は6シリング8ペンス.のちには8シリング4ペンスの価値に変更.
 エンジェル金貨:1465年に価値6シリング8ペンスの金貨として製造され,ノーブル貨に取って代わった.ステュアート朝初期まで製造され続けた.
 ロイヤル金貨:14世紀にエドワード黒太子がアキテーヌで発行.イングランドでは1465年にエドワード4世が10シリングの価値の金貨として製造.1470年に製造が中止されたが,ヘンリ7世時代に一時復活した.
 クラウン貨:価値5シリングの貨幣.初め1526年に金貨として登場.エドワード6世時代以降,金貨と銀貨の両方が造られた(のちには銀貨のみ).1902年以降は特別な記念の際にのみ製造される.ただし,半クラウン貨は1970年まで使用された.
 ユナイト金貨:1604年,ジェイムズ1世によりイングランドとスコットランドの合同を記念して製造された.価値20シリング.
 ギニー金貨:1663年に西アフリカのギニア産の金で製造され(価値20シリング),ユナイト金貨に取って代わった.その後すぐに価値21シリングに上がり,1694年には30シリングまで上昇したが,1717年に21シリングに固定.造幣は1813年に停止されたが,貨幣単位としてはその語も長く使用され続け,現在に至っている.とくに,不動産・車などの高額商品や月謝など儀礼的な意味をともなう時にまれに用いる.
 ソヴリン金貨:1ポンドの価値.一般使用貨幣としては,1817年から1925年まで製造.同名の金貨は,1489年にヘンリ7世(価値20シリング)が鋳造しており,エドワード6世・メアリ1世・エリザベス1世時代にも価値30シリングの金貨として造られた.


 ・ 川北 稔(編) 『イギリス史』 山川出版社,1998年.

[ | 固定リンク | 印刷用ページ ]

Powered by WinChalow1.0rc4 based on chalow