hellog〜英語史ブログ

#3314. 英語史における「言文一致運動」[japanese][terminology][medium][writing][emode][latin][style][genbunicchi]

2018-05-24

 言葉は,媒体の観点から大きく「話し言葉」と「書き言葉」に分かれる.書き言葉はさらに,フォーマリティの観点から「口語体」と「文語体」に分かれる.野村 (5) を参照して図示すると次の通り.

          ┌── 話し言葉
言葉 ──┤                    ┌── 口語体
          └── 書き言葉 ──┤
                                └── 文語体

 言語史を考察する場合には,しばしば後者の区分について意識的に理解しておくことが肝心である.現在の日本語でいえば,書き言葉といえば,通常は口語体のことを指す.この記事の文章もうそうだし,新聞でも教科書でも小説でも,日常的に読んでいるもののほとんどが,日常の話し言葉をもとにした口語体である.しかし,明治時代までは漢文や古典日本語に基づいた文語体が普通だった.言文一致運動は,文語体から口語体への移行を狙う運動だったわけだ.
 英語史においても,口語体と文語体の区別を意識しておくのがよい.中世から近代初期にかけて,イングランドにおける主たる書き言葉といえばラテン語(およびフランス語)だった.日常的には話し言葉で英語を使っていながら,筆記する際にはそれに基づいた口語体ではなく,外国語であるラテン語を用いていたのである.英語史における文語体とは,すなわち,ラテン語のことである.
 日英語における文語体の違いは,日本語では古典日本語に基づいたものであり,英語では外国語に基づいたものであるという点だ.だが,日常的に用いている話し言葉からの乖離が著しい点では一致している.近代初期にかけてのイングランドでは,書き言葉がラテン語から英語へと切り替わったが,この動きはある種の言文一致運動と表現することができる.なお,厳密な表音化を目指す綴字改革 (spelling_reform) も言文一致運動の一種とみなすことができるが,ここでは古典語たるラテン語が俗語たる英語にダイナミックに置き換わっていく過程,すなわち書き言葉の vernacularisation を指して「言文一致運動」と呼んでおきたい.
 この英語史における「言文一致運動」については,とりわけ「#1407. 初期近代英語期の3つの問題」 ([2013-03-04-1]) や「#2580. 初期近代英語の国語意識の段階」 ([2016-05-20-1]),「#2611. 17世紀中に書き言葉で英語が躍進し,ラテン語が衰退していった理由」 ([2016-06-20-1]) を参照されたい.

 ・ 野村 剛史 『話し言葉の日本史』 吉川弘文館,2011年.

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