hellog〜英語史ブログ

#3077. 長田による「文字言語の構成要素と暗号形式の対応」[cryptology][semiotics][sign][writing]

2017-09-29

 連日,長田順行(著)『暗号大全』を参照しているが,言語と文字について論じる上で,暗号(学)が多くのインスピレーションを与えてくれることに驚いている.今回は,様々な種類の暗号を「文字言語の構成要素と暗号形式の対応」関係により整理・分類した長田の表を示したい (29) .

文字言語の構成要素と人為的操作形式名見かけ上の特徴
一定の文字別の文字で代用換字式暗号らしい暗号(一般的な暗号)
一定の順序順序の入替え転置式暗号らしい暗号(一般的な暗号)
別の文字を挿入分置式暗号らしくない暗号(特殊な暗号)
一定の意味別の意味に変換,あるいは遠回しに表現隠語・隠文式暗号らしくない暗号(特殊な暗号)
上記の組み合わせ混合式暗号らしくない暗号(特殊な暗号)


 換字式 (substitution) は「#2704. カエサル暗号」 ([2016-09-21-1]) に代表されるタイプで,ある文字を別の文字で代用するものである.一方,転置式 (transposition) は一定の順序に並んでいる文字列を,別の順序に並び替えるタイプである.例えば,最も簡単な転置式暗号の1つは,nowhereerehwon などと逆順に並び替えるものである.この2種類の暗号では,できあがった暗号文はたいてい意味不明の文字列になるのでいかにも見栄えは暗号らしくなる.
 分置式は,一定の順序に並んでいる文字列に別の文字を挿入するもので,「#3072. 日本語の挟み言葉」 ([2017-09-24-1]) で挙げた「ノサ言葉」などが例となる.「#3071. Pig Latin」 ([2017-09-23-1]) は,転置式と分置式を合わせたような暗号である.これらは,ある程度普通言語のような見栄えをしているのが特徴である.
 以上の3種類は,文字レベルの操作であり,記号論でいうところの能記 (signifiant) をいじることによる暗号化である.それに対して所記 (ssignifié) をいじるタイプの暗号もあり,隠語・隠文などと呼ばれる.見栄えとしては普通言語の語などからなっているが,その語の意味は別の意味に変換されているので,それを了解していないかぎり,読み解くことは難しい.

 ・ 長田 順行 『暗号大全 原理とその世界』 講談社,2017年.

[ | 固定リンク | 印刷用ページ ]

Powered by WinChalow1.0rc4 based on chalow