hellog〜英語史ブログ

#2923. 左と右の周辺部[pragmatics][grammaticalisation][syntax][subjectification][intersubjectification][implicature]

2017-04-28

 近年,語用論では,「周辺部」 (periphery) 周辺の研究が注目されてきている.先月も青山学院大学の研究プロジェクトをベースとした周辺部に関する小野寺(編)の論考集『発話のはじめと終わり』が出版された(ご献本ありがとうございます).
 理論的導入となる第1章に「周辺部」の定義や研究史についての解説がある.作業上の定義を確認しておこう (9) .

周辺部とは談話ユニットの最初あるいは最後の位置であり,そこではメタテクスト的ならびに/ないしはメタ語用論的構文が好まれ,ユニット全体を作用域とする


 周辺部には最初の位置(すなわち左)と最後の位置(右)の2つがあることになるが,両者の間には働きの違いがあるのではないかと考えられている.先行研究によれば,「左と右の周辺部の言語形式の使用」として,次のような役割分担が仮説され得るという (25) .

左の周辺部 (LP)右の周辺部 (RP)
対話的 (dialogual)二者の視点的 (dialogic)
話順を取る/注意を引く (turn-taking/attention-getting)話順を(譲り,次の話順を)生み出す/終結を標示する (turn-yielding/end-marking)
前の談話につなげる (link to previous discourse)後続の談話を予測する (anticipation of forthcoming discourse)
返答を標示する (response-marking)返答を促す (response-inviting)
焦点化・話題化・フレーム化 (focalizing/topicalizing/framing)モーダル化 (modalizing)
主観的 (subjective)間主観的 (intersubjective)


 周辺部の問題は,語用論と統語論の接点をなすばかりでなく,文法化 (grammaticalisation),主観化 (subjectification),間主観化 (intersubjectification),慣習的含意 (conventional implicature) の形成など広く言語変化の事象にも関与する.今後の展開が楽しみな領域である.

 ・ 小野寺 典子(編) 『発話のはじめと終わり ―― 語用論的調整のなされる場所』 ひつじ書房,2017年.

Referrer (Inside): [2018-09-03-1]

[ | 固定リンク | 印刷用ページ ]

Powered by WinChalow1.0rc4 based on chalow