hellog〜英語史ブログ

#2847. statestatistics[etymology][semantic_change][polysemy]

2017-02-11

 state には,原義としての「状態」のほか「国家」という語義がある.この語は,古フランス語 estat が初期中英語に入ったものであり,それ自体はラテン語 status からの借用語である.これはラテン語の動詞 stāre "to stand" の名詞形なので,本来的な意味は「立場,姿勢」ほどである.
 その後,ラテン語でもフランス語でも様々な意味変化を経て多義語となったが,英語もその経路をなぞるようにして語義を発展させていった.「状態,形勢」から「地位,身分」へと発展し,さらに「威厳」や「階級」へも展開した.意味を限定して「支配階級」となると,その後「為政者集団」,そして集合的に「国家」にたどり着くまでの道のりは遠くなかった.このようにして,英語における state =「国家」の語義は,まさに近代国家の現われる16世紀前半に初出する.
 さて,「国家」の語義を発展させた state と,「統計学」を意味する statistics の関わりは思いのほか深い.statistics の英語での初出は1787年と案外遅く,ドイツ語で造語された Statistik を借りたものだが,当時の意味は「国家の政治的事実の研究」ほどだった.つまり,statistics とは政治学の1分野として発展してきたものなのである.「国家の政治的事実」の最たるものは人口統計であり,国家,政治,人口,統計というキーワードは互いに結び付きが強かったのである.
 日本語では,英語の population census を単なる「人口調査」ではなく,ものものしく「国勢調査」と訳している.これは,幕末から明治にかけての日本人が,西洋の思想と学問に触れ,statistics の訳語を検討した際に,現在に続く「統計学」のほか「国勢学」「形勢学」「政表」などの訳語を試用したことと無縁ではない.
 最近は,言語学でも少し数字を駆使すれば "stats" として提示できるような,ある種の「軽さ」も禁じ得ない雰囲気があるが,本来 statistics は「国家」の影のちらつく,ものものしく重々しい語感を備えていたもののようだ.
 1月9日の読売新聞朝刊の「翻訳語事情」に,population census = 「国勢調査」に関する記事があったので参考まで.

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