3人称複数代名詞が,中英語期中に,本来語の h- 形から古ノルド語由来とされる th- 形へと置き換えられていったことは,英語史では広く知られている.しかし,th- への置換は,格によってタイミングが異なっていた (see 「#975. 3人称代名詞の斜格形ではあまり作用しなかった異化」 ([2011-12-28-1]), 「#1843. conservative radicalism」 ([2014-05-14-1])) .すべての方言で繰り返されたパターンは,まず主格が,次に属格が,最後に斜格(与格と対格の融合したもの)が th- 形へ移行するというパターンだ.例えば,北東中部方言の Ormulum (?c1200) では,すでに早い段階で主格は þeȝȝ 一辺倒になっており,属格でも多少の h- 形を残しながらも大部分は þeȝȝre だが,斜格では逆に多少の þeȝȝm を示しながらも hemm が基本である.
ロンドンで主格に þei が現われるのは14世紀であり,Chaucer では þei / her(e) / hem というパラダイムが用いられている (「#181. Chaucer の人称代名詞体系」 ([2009-10-25-1])) .15世紀になると,属格で their が her(e) と競合するようになり,世紀末には Caxton などで their が事実上の唯一形となる.them の定着は最も遅く,Chaucer の次世代の Lydgate や Hoccleve でもまだ hem のみであり,Caxton では them が現われるものの,いまだ hem のほうが優勢だった.16世紀の初めになって,ようやく them が定着し,現代標準英語の状況に達することになった (Lass 120; Mustanoja 134--35) .
したがって,3人称複数のパラダイムは,いずれの方言においても,絶対年代こそ異なれ,共通して以下の3段階を経たことになる (Lass 121).
I | II | III | |
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Nominative | þei | þei | þei |
Genitive | her(e) | her(e) ? þeir | þeir |
Oblique | hem | hem | hem ? þem |
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