hellog〜英語史ブログ

#2140. 音変化のライフサイクル[phonetics][phonology][morphology][language_change][neogrammarian]

2015-03-07

 音変化の領域では,かつての青年文法学派 (neogrammarian) による "Ausnahmslose Lautgesetze" 「例外なき音変化」というテーゼが見直されるようになって久しい.実際の音変化は必ずしも規則に従ってきれいに進行するとは限らず,むしろ複雑な諸要因の混線するのが普通である.「音変化のライフサイクル」は積年の話題ではあるが,近年,新しい視点から再考されるようになってきた.様々な考え方があるが,Salmons (103) は近年の提案に通底する見解を次のようにまとめて評価している.

   1. Coarticulation and other articulatory factors . . . introduce new synchronic variants into the pool of speech . . . .
   2. As learners . . . and listeners . . ., we build generalizations based on those variants, constrained by our cognitive abilities. This often turns phonetic patterns into phonological ones.
   3. Phonological patterns feed morphological alternations, and as 'active' phonological processes fade, they may be adjusted to fit paradigms, in analogical or other realignments . . . .

   In a sense underlying the life cycle is the notion that phonetic and phonological patterns are constantly reinterpreted, negotiated and generalized by each generation of learners, speakers and listeners.


 端的にいえば,音声変異は音韻変化をもたらし,音韻変化は形態変化(類推)もたらしながら減退するというライフサイクルだ.音韻変化と形態変化がこのような関係にあることは,「#1674. 音韻変化と屈折語尾の水平化についての理論的考察」 ([2013-11-26-1]),「#1693. 規則的な音韻変化と不規則的な形態変化」 ([2013-12-15-1]) でも示唆してきた通りである.また,「#838. 言語体系とエントロピー」 ([2011-08-13-1]) で導入したエントロピーの観点からみると,このライフサイクルは,エントロピーの増大,及びそれに続く減少として記述できる.
 上の引用の2にあるように,近年,聞き手を重視した言語変化の説明が盛んになってきている.論者によっては,すべての音変化において聞き手が鍵を握っていると主張する者もいる.本ブログでも「#1932. 言語変化と monitoring (1)」 ([2014-08-11-1]),「#1933. 言語変化と monitoring (2)」 ([2014-08-12-1]),「#1934. audience design」 ([2014-08-13-1]),「#1935. accommodation theory」 ([2014-08-14-1])).「#1070. Jakobson による言語行動に不可欠な6つの構成要素」 ([2012-04-01-1]),「#1862. Stern による言語の4つの機能」 ([2014-06-02-1]),「#1936. 聞き手主体で生じる言語変化」 ([2014-08-15-1]) で取り上げてきた通り,音変化ならずとも言語変化における聞き手の役割はもっと評価されてもよい.

 ・ Salmons, Joseph. "Segmental Phonological Change." Chapter 18 of Continuum Companion to Historical Linguistics. Ed. Silvia Luraghi and Vit Bubenik. London: Continuum, 2010. 89--105.

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