現代英語の不規則活用を示す動詞,特に語幹の母音交替 ( Ablaut or gradation ) により過去・過去分詞形を作る動詞の多くは,歴史的な強変化動詞に由来する.古英語では現代英語よりも多くの動詞が強変化動詞に属しており,その大半が現代までに弱変化(規則活用)へ移行するか,あるいは廃語となった.動詞のいわゆる強弱移行の歴史については,「#178. 動詞の規則活用化の略歴」 ([2009-10-22-1]) ,「#527. 不規則変化動詞の規則化の速度は頻度指標の2乗に反比例する?」 ([2010-10-06-1]) ,「#528. 次に規則化する動詞は wed !?」 ([2010-10-07-1]),「#764. 現代英語動詞活用の3つの分類法」 ([2011-05-31-1]),「#1287. 動詞の強弱移行と頻度」 ([2012-11-04-1]) などの記事を参照されたい.
さて,現代英語にまで生きながらえた強変化動詞は,活用の仕方によって標記の drink--drank--drunk のようなABC型や win--won--won のようなABB型など,いくつかの種類に区分されるが,これらは近代英語期以後の標準英語において確立したものと考えてよい.「#492. 近代英語期の強変化動詞過去形の揺れ」 ([2010-09-01-1]) でみたように,近代ではまだ過去形や過去分詞形の母音が揺れを示すものが少なくなかったし,現在でも方言を含む非標準変種では異なる母音が用いられたりする.
drink と win の活用タイプの違いや近代英語期に見られる揺れの起源は,古英語の強変化動詞には第1過去(「単数過去」とも)と第2過去(「複数過去」とも)の2種類が区別されていた事実にある.「#42. 古英語には過去形の語幹が二種類あった」 ([2009-06-09-1]) で述べたように,各動詞は主語の数と人称に応じて2つの異なる過去形をもっていた.drink でいえば,不定形 -- 第1過去形 -- 第2過去形 -- 過去分詞形の順に,drincan -- dranc -- druncon -- druncen のように活用し,win については winnan -- wann -- wunnon -- wunnen と活用した(これを活用主要形 (principal parts) と呼ぶ).ところが,中英語以後,屈折体系全体の簡略化の潮流に伴い,これらの動詞の過去形は2種類の形態を区別する機会を減らしていった.かつての第1過去形か第2過去形のうちいずれかが優勢となり徐々に唯一の過去形として機能していくことになったが,この過程は想像される以上に複雑であり,近代英語期までに形態が定着せず,激しい揺れを示したり方言差や個人差の著しい動詞も多かった.drink はたまたま第1過去 dranc に由来する形態が標準英語の過去形として定着することになり,win についてはたまたま第2過去 wunnan の形態(後に won と綴られ /wʌn/ と発音される)に由来する形態が採用されたということである.
第1過去形か第2過去形のいずれが採用されることになるかを決定づける要因は特定できない.drincan と winnan の属する強変化第3類の他の動詞について調べてみると,drinkcan のように後に第1過去形が採用されたものには hringan, scrincan, sincan, singan, springan, swimman があり,winnan のように第2過去形が採られたものには clingan, spinnan, stingan, wringan がある.しかし,非標準変種では過去形に別の母音をもつ形態が用いられるケースも少なくない.例えば,sing の過去形は標準変種では sang だが,非標準変種で sung が用いられることもある.また,spin の過去形も標準変種では spun だが,それ以外の変種では span もありうる,等々(岩崎,p. 76).
なお,bindan, findan, grindan, windan も強変化第3類の動詞で,いずれも後に第2過去形が採用されたタイプである (ex. bound, found, ground, wound) .この母音は,初期中英語で生じた同器性長化 (homorganic_lengthening) により長くなり,さらに後に大母音推移 (gvs) により2重母音化した /aʊ/ をもつに至っている点で,winnan のタイプとは少々異なる音韻的経緯を辿った.
・ 岩崎 春雄 『英語史』第3版,慶應義塾大学通信教育部,2013年.
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