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#1996. おしゃべりに関わる8要素 SPEAKING[ethnography_of_speaking][speech_act][communication]

2014-10-14

 おしゃべり (speech) には様々な種類がある.噂話もあればヤジもあるし,謝辞もあればお世辞もある.演説,告白,討論,説教,エレベーターピッチまで様々だ.では,これらの種々のおしゃべりを分類するのに,どのような基準が考えられるだろうか.別の言い方をすれば,これらコミュニケーション上の出来事がどのようにその目標を達成しているのか理解する上で関与的な要素は何だろうか.社会言語学者 Hymes は,頭字語 SPEAKING のもとに8つの要素を認めている.Hymes を要約した Wardhaugh (259--61) の記述にしたがって,簡単に説明しよう.

 (1) Setting and Scene. 前者はおしゃべりが行われている時間と場所を指し,後者は抽象的で心理的な環境を指す.例えば,女王のクリスマスのメッセージや米大統領の年頭教書は,特有の Setting と Scene をもっている.日本でいえば,天皇陛下の新年のお言葉も特有な Setting と Scene をもっている.

 (2) Participants. 話し手と聞き手.会話では両者が順番に発話するのが通常だが,演説や講義では主におしゃべりは一方通行で,かつ聞き手は複数である.留守番電話では,話し手と聞き手というよりは,メッセージの送り手と受け手というのが適当だろう.祈りにおいては,聞き手は神である.

 (3) Ends. そのおしゃべりを通じて慣習的に期待されている目的,あるいは話し手が個人的に目指している目的.例えば法廷における発言は,判事,陪審員,被告,原告,証人のいずれによってなされるかによって大きく異なる目的をもつ.結婚式における誓いの発話は,社会的な目的を有していると同時に,新郎新婦の個人的な目的を有している.

 (4) Act sequence. 具体的に使われた表現について,それがどのように使われたのか,現行の話題とどのような関係があるのかという観点をさす.そのおしゃべりでは,どのような表現が発話されており,実際に何が行われているのかという視点である.語用論でいう発話行為 (speech_act) の考え方に通じる.「#1646. 発話行為の比較文化」 ([2013-10-29-1]) を参照.

 (5) Key. メッセージを伝える際のトーンや様式や気分など.おしゃべりが気軽か深刻か,あるいは精確か,衒学的か,儀式的か,軽蔑的か,皮肉的か等々.種々の非言語的な行動,身振り,姿勢などを伴うこともある.

 (6) Instrumentalities. コミュニケーションの回路の選択肢.話しことばか書き言葉か,電話か電信かなどの媒介の選択肢にとどまらず,用いる言語,方言,コード,使用域の選択肢をもさす.code-switching は,複数の instrumentalities を使い分けるおしゃべりの仕方ということになる.

 (7) Norms of interaction and interpretation. おしゃべりに付随する特定の行動や特性,及びそれらに関する規範をさす.声の大きさ,沈黙,視線合わせ,話し相手との立ち位置に関する物理的距離などにちての規範などが含まれる.「#1633. おしゃべりと沈黙の民族誌学」 ([2013-10-16-1]),「#1644. おしゃべりと沈黙の民族誌学 (2)」 ([2013-10-27-1]) を参照.

 (8) Genre. 発話のジャンル.詩,ことわざ,なぞなぞ,説教,祈祷,講義,社説などの明確に区別される発話の種類をさす.

 人々はこれら SPEAKING の各要素に常に注意を払いながらおしゃべりしていると考えられる.Wardhaugh (261) の言うように,おしゃべりは極めて複雑な営為である.

What Hymes offers us in his SPEAKING formula is a very necessary reminder that talk is a complex activity, and that any particular bit of talk is actually a piece of 'skilled work.' It is skilled in the sense that, if it is to be successful, the speaker must reveal a sensitivity to and awareness of each of the eight factors outlined above. Speakers and listeners must also work to see that nothing goes wrong. When speaking does go wrong, as it sometimes does, that going-wrong is often clearly describable in terms of some neglect of one or more of the factors. Since we acknowledge that there are 'better' speakers and 'poorer' speakers, we may also assume that individuals vary in their ability to manage and exploit the total array of factors.


 文法や語彙を学習しただけでは言語をマスターしたとはいえない.上手におしゃべりするためには,SPEAKING に敏感であることが必要である.関連して「#1632. communicative competence」 ([2013-10-15-1]) と「#1652. 第2言語習得でいう "communicative competence"」 ([2013-11-04-1]) を参照.

 ・ Wardhaugh, Ronald. An Introduction to Sociolinguistics. 6th ed. Malden: Blackwell, 2010.

Referrer (Inside): [2016-12-19-1]

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