「#1632. communicative competence」 ([2013-10-15-1]) の記事で,communicative competence を linguistic competence と対比させたが,広い意味での communicative competence は,linguistic competence をはじめ,言語活動に必要な諸能力を含む.実際に第2言語習得 (Second Language Acquisition) の分野では,第2言語について習得すべき能力は,理想的には "communicative competence" を頂点とする以下のすべての能力とされている(下図は O'Grady et al., p 395 の "A model of communicative competence" を参考にして作成した).
改めて考えてみると,言語学の諸分野はこれらの諸能力に対応する言語の諸体系を解明するために存在しているといえる.しかし,ここでは生きている話者の共時的なコミュニケーション能力を問題にしているのであり,通時的な次元の能力 (?) は当然ながら話題にされていない.したがって,歴史言語学や言語史のような分野は,この図に入り込む余地はない.しかし,だからといって言語学の枠から外されるべきだということにはならないだろう.言語学は言語に関するあらゆる側面を話題にするものであり,通時態も共時態と同じ資格で研究されるべき対象である.共時的な能力を示す上の図と並列的に,隠れた通時的な営みの図を想定したい.
この図に関してもう1つ付け加えたいことは,「#1632. communicative competence」 ([2013-10-15-1]),「#1633. おしゃべりと沈黙の民族誌学」 ([2013-10-16-1]),「#1644. おしゃべりと沈黙の民族誌学 (2)」 ([2013-10-27-1]), 「#1646. 発話行為の比較文化」 ([2013-10-29-1]) で取り上げてきた,狭い意味での "communicative competence" はこの図のなかではどこに位置づけられるのだろうか,という疑問である."Sociolinguistic competence" の "Cultural references" に含まれるように思われるが,そうだとすれば,話すタイミング,沈黙すべきタイミング,挨拶の仕方,直接的に言ってよいかどうか,会話に割って入る際の規範等々が,枝葉としてその下へ追加されることになるのだろう.
・ O'Grady, William, John Archibald, Mark Aronoff, Janie Rees-Miller. Contemporary Linguistics: An Introduction. 6th ed. Boston: Bedford/St. Martin's, 2010. (Companion Site based on the 5th edition available here.)
Powered by WinChalow1.0rc4 based on chalow