8月後半にオーストラリアに出かけていたが,その往復に初めて Qantas 機を利用した.成田・シドニー路線の機内は非常に広々としており,実に快適なフライトだった.日本語では「カンタス」と呼び習わしているが,機内の放送で [ˈkwɑntəs] の発音を聞いた.Q の文字に対応するだけに,子音は [k] ではなく [kw] なのだ.
Qantas は "Queensland and Northern Territory Aerial Services" の頭字語 (acronym) である.1920年に名前の通りオーストラリアのローカルな航空会社として創設されたが,47年に国営化され,現在では世界有数の国際的な航空会社である.創業してから無事故とされ(事故の定義にもよるが),安全面での評価も高い.
英語本来語あるいは英語に入って歴史の長い語のなかでは,通常 <q> は単独で用いられることはなく,<qu> と必ず直後に <u> を伴う.歴史的には,古英語で <cw> と綴られていたものが,中英語でフランスの写字習慣に習って <qu> と綴られるようになったものだ.<q> の後に原則として <u> が続くということは,情報価値という観点から言い換えれば「<u> の情報量はゼロである」ということになる.<u> が続くことは100%予想できるので,<u> はなくても同じということになるからだ.機能上,<q> の後の <u> は不要ということになるのだが,<qu> の連続に慣れてしまった目には <q> 単独は妙に見える.綴字レベルでも,言語の余剰性 (redundancy) が作用している証だろう.
もっとも,頭字語,アラビア語や中国語からの借用語など,完全に英語に同化したとはみなせない語群では,<q> の後に <u> が続かないことも多い.表題の Qantas は綴字としては <q> 単独で用いられているが,発音としては単独の [k] ではなく [kw] を示している.Qatar [ˈkæːtɑː], qibla(h) [ˈkɪblə], Qing [ʧɪŋ], また <u> が後続するものの [kw] を示さない Quran [kɔːˈrɑːn] も参照.
なお,「#308. 現代英語の最頻英単語リスト」 ([2010-03-01-1]) の末尾で見たように,<q> は英語で <z> に次いで最も使用頻度の低いアルファベットの文字である(<z> については z の各記事を参照).キーボードのQWERTY配列でも,その名が示すとおり,<Q> は左手の小指を差しのばして打たなければならない日陰者である.QWERTY 自体が一種の頭字語であり,<q> の後に <w> が続き,かつ [w] が発音されるまれな例である.
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