#1560. Chaucer における頭韻の伝統[alliteration][rhyme][chaucer]


 Chaucer の韻律といえばまず脚韻 (rhyme) が思い浮かぶが,英詩として頭韻 (alliteration) の伝統が完全に忘れられたわけではない.体系的には現われずとも,ここぞというところで効果的に用いられることはある.
 例えば,地村 (5) によれば,The Knight's Tale より,パラモンとアルシーテの決闘の場面で頭韻が効果的に用いられている.

Ther is namoore to seyn, but west and est
In goon the speres ful sadly in arrest;
In gooth the sharpe spore into the syde.
Ther seen men who kan juste and who kan ryde;
Ther shyveren shaftes upon sheeldes thikke;
He feeleth thurgh the herte-spoon the prikke.
Up spryngen speres twenty foot on highte;
Out goon the swerdes as the silver brighte;
The helmes they tohewen and toshrede;
Out brest the blood with stierne stremes rede;
With myghty maces the bones they tobreste.
He thurgh the thikkeste of the throng gan threste;
Ther stomblen steeds stronge, and doun gooth al,
He rolleth under foot as dooth a bal;
He foyneth on his feet with his tronchoun,
And he hym hurtleth with his hors adoun;
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
Out renneth blood on bothe hir sydes rede. (I(A)2601--35)

 地村 (6) は,/s/ 音は素早い動きを,/h/ 音は剣の高らかなこだまを,/b/ 音は血のほとばしる様子を表わしており,恋のための決闘の燃え上がる感情を効果的に示していると分析している.また,地村 (13) は別の箇所で,頭韻について次のように述べている.(ほかに,頭韻については (alliteration) の各記事を参照.)

文学作品は言うに及ばず、神学、ジャーナリズム、政治、標語、格言、慣用句及び慣用句的語法、複合詞、公告、書名及び標題、命名などに頭韻が見られるという。このことは、いかに頭韻が英国文化に浸透しているかを証明しているだけでなく、英語という言語に備わっている強い意志表現の手段としての頭韻の重要性を示している。インターネットを通して現代英語に見られる頭韻の例を探してみると、早口言葉の "Peter Piper picked a peck of pickled peppers" から、Big Ben, Coca-Cola, Super Sonic, Donald Duck, Mickey Mouse などよく耳にするものがあげてある。またイギリスの町の中で "Pen to Paper" や "Marie Curie Cancer Care" のような頭韻を使った店頭の看板に目が行った。このように、英語と英語圏の人々にとって、頭韻は切ってもきれない必要欠くべからざる表現手段と考えることが出来る。

 大陸からもたらされた脚韻という刷新に,本来的な頭韻という伝統の継承を混ぜ合わせた Chaucer の英語使用は注目に値するだろう.Chaucer の英語の伝統と刷新に関する議論としては,関連して「#257. Chaucer が英語史上に果たした役割とは?」 ([2010-01-09-1]), 「#298. Chaucer が英語史上に果たした役割とは? (2) 」 ([2010-02-19-1]), 「#524. Chaucer の用いた英語本来語 --- stevene」 ([2010-10-03-1]), 「#525. Chaucer の用いた英語本来語 --- drasty」 ([2010-10-04-1]), 「#526. Chaucer の用いた英語本来語 --- 接頭辞 for- をもつ動詞」 ([2010-10-05-1]) を参照されたい.

 ・ 地村 彰之 『チョーサーの英語の世界』 溪水社,2011年.

Referrer (Inside): [2016-11-07-1] [2016-08-24-1]

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