hellog〜英語史ブログ

#1552. T/V distinction と face[face][politeness][pragmatics][personal_pronoun][honorific][t/v_distinction]

2013-07-27

 「#1126. ヨーロッパの主要言語における T/V distinction の起源」 ([2012-05-27-1]) で,T/V distinction の起源に関する Brown and Gilman の古典的な学説を紹介した.Brown and Gilman 以来,ヨーロッパの主要言語以外でも2人称単数に対する呼称の T/V distinction が広く観察されることが知られるようになり,理論においても politeness や face という概念が育ってきたことで,新しい観点からこの問題に迫ることができるようになってきている.
 先の記事[2012-05-27-1]でも既に示唆したが,敬称 (V) のもつ本来的な複数性が丁寧と結びつけられるのは,複数性が相手に権力を認めることになるからだとされる.一方で,同じ複数性は,実際には1人である相手への指示の度合いをぼかしたり弱めたりするということにもなる.矛盾する2つの力が働いているのだとすれば,互いに打ち消し合って敬称を用いる効果が減じてしまうように思われるが,これはどう説明されるのか.
 一見矛盾する2つの力は,ポライトネス理論の face という観点から無理なく融合させることができる.複数性のもつ,相手に権威を付すという機能は相手の positive face を守る役割としてとらえることができ,指示対象をぼかし,「敬して遠ざく」ことにより敬意と遠慮と示すという複数性の機能は相手の negative face を守る役割としてとらえることができる.両者は方向こそ異なっているが,ともに相手の顔を立てようとしている点で一致している.これを,Hudson (124) は次のように要約している.

Their [Penelope Brown and Stephen Levinson's] explanation is based on the theory of face . . . . By using a plural pronoun for 'you', the speaker protects the other person's power-face in two ways. First, the plural pronoun picks out the other person less directly than the singular form does, because of its ambiguity. The intended reference could, in principle, be some group of people rather than the individual actually targeted. This kind of indirectness is a common strategy for giving the other person an 'out', an alternative interpretation which protects them against any threats to their face which may be in the message. The second effect of using a plural pronoun is to pretend that the person addressed is the representative of a larger group ('you and your group'), which obviously puts them in a position of greater power.


 複数性を利用した意味のぼかしが権威付与と敬意に通じるという洞察は,広い言語現象に応用できるように思われる.日本語に多いぼかし表現の例である「〜など」や「〜みたいな」は,「〜」だけではないことを柔らかく示しながらも,「〜」に代表としての特別な地位を与えているともいえるのである.

 ・ Brown, R. W. and A. Gilman. "The Pronouns of Power and Solidarity." Style in Language. Ed. Thomas A. Sebeok. Cambridge, Mass.: MIT P, 1960. 253--76.
 ・ Hudson, R. A. Sociolinguistics. 2nd ed. Cambridge: CUP, 1996.

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