hellog〜英語史ブログ

#1512. fish の複数形[plural][number][poema_morale][manuscript][inflection]

2013-06-17

 現代英語では,通常 fish の複数形は同形の fish である (ex. I saw a school of fish in the river) .特に種類が異なる魚であることを強調する場合には fishes とすることもあるが,その場合にも three kinds of fish などとすることが多い.また,イギリス英語では種類の異同にかかわらず fishes とすることはあるが,一般的には fish は単複同形と考えておいてよいだろう.あるいは,複数としての fish は集合的に用いられているものと考えてもよい.その点では,部分的に fruithair などとも用法が似ている.
 単複同形といえば,ほかに sheepdeer (ただし規則的な複数形 deers もある)が思い浮かぶかもしれない.これらは両語とも古英語の中性強変化名詞 scēap, dēor に遡り,複数主格・対格が同形になることは古英語の形態規則に沿っている.したがって,現代英語の単複同形は古英語からの遺産として説明される.
 ところが,fish の古英語形 fisc は,男性強変化名詞なので複数主格・対格形は fiscas である.これが後に fishes へと発展してゆくのだが,現代英語でより一般的な複数形 fish のほうは sheep, deer のように古英語の遺産としては説明できないことになる.つまり,複数形 fish は古英語より後の時代に生まれた革新形と考える必要がある.
 実際に,複数形 fish は初期中英語で初出している.OED によると,fish を単数形と同形のまま集合的に用いる用法 (1b) は,a1300 の Cursor Mundi に初出する.

9395 (Cott.): Foghul and fiche, grett thing and small.


 また,MEDfish (n.) (2b) によれば,fish の総称的あるいは質量的な名詞としての用法が挙げられており,初例は?a1200の作とされる Layamon's Brut からだ.

Lay. Brut (Clg A.9) 22000: Þer inne is feower kunnes fisc.


 手元にある初期中英語の複数形データベースでは,40例までが複数語尾を伴う形態で,5例のみが単数形と同形である.いまだ -es 形が優勢だが,後の歴史のある段階で形勢が逆転することになったのだろう.7つのバージョンで伝わる Poema Morale では,D写本とM写本のみが語尾なしの形態を用いている.

T(83): He makeð þe fisses in þe sa þe fueles on þe lofte.
J(82): He makede fysses in þe sea. and fuweles in þe lufte.
E1(83): He makede fisses inne þe see. and fuȝeles inne þe lofte
E2(83): He makede fisces in ðe sé. {end} fuȝeles in ðe lufte.
D (159--60): he wrohte fis on þer sae / and foȝeles on þar lefte.
L (83): He makede fisses in þe se 7 fuȝeles in þe lifte.
M (77): He scuppeþ þe fish in þe seo, þe foȝel bi þe lefte.


 以上は「#12. How many carp!」 ([2009-05-11-1]) でも取り上げた話題だが,現代英語における「不規則な」形態の多くが古英語からの遺産として説明できる一方,中英語以降の革新として説明される例も同じくらい多いということに注意したい.

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