昨日の記事「#1350. 受動態の動作主に用いられる of」 ([2013-01-06-1]) や「#1333. 中英語で受動態の動作主に用いられた前置詞」 ([2012-12-20-1]) で触れなかったが,もう2つばかり取り上げるべき前置詞があった.through と at である.
through については,OED の through, prep. and adv. 7b に,すでに廃用としてであるが,受動態の動作主としての語義が与えられている.初例は c900 の Bede の Historia Ecclesiastica Gentis Anglorum の翻訳から,最終例は1598年のもので,全部で8例しか挙げられていない.また,MED は,受動態の動作主の用法としては語義を立てていない.中英語での用法について,いくぶんか詳しいのは Mustanoja (408) である.
Indicating the agent of a passive verb through is not particularly common in OE, and in ME it loses ground steadily: --- þuruh me ne schulde hit never more beon iupped (Ancr. 38); --- in Rome throu an þat hight Neron . . . Naild on þe rod he [Peter] was (Cursor 20909, Cotton MS); --- alle cristen folk been fled fro that contree Thurgh payens (Ch. CT B ML 542; it is impossible to say for certain whether been fled is an active or passive form).
一方,at については,中尾 (355) によれば,中英語で「きわめてまれだが受動構造の動作主 (passive agent) をあらわす Prp として起こることがある」.MED では,語義9に "Of means or agency: by means of, through; by (sb.)." とあるが,例を眺めてみると,いずれも受動態の動作主として解釈できるかどうかは必ずしも明確ではない.OED では語義は立てられておらず,Mustanoja にも記述がない.at が受動態の動作主の用法をもっていたかどうか,疑わしくなってきた.
なお,15世紀における of と by の競合について,中尾 (358) より興味深い記述を付け加えておく.「15世紀になるととくに口語では by が of を圧倒して行くようになる (Cely/PL/Shillingford/Stonor では of:by≒1:14)。」
・ Mustanoja, T. F. A Middle English Syntax. Helsinki: Société Néophilologique, 1960.
・ 中尾 俊夫 『英語史 II』 英語学大系第9巻,大修館書店,1972年.38頁.
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