「#845. 現代英語の語彙の起源と割合」 ([2011-08-20-1]) や「#1202. 現代英語の語彙の起源と割合 (2)」 ([2012-08-11-1]) でたびたび扱ってきた話題だが,もう1つ似たような統計を Brinton and Arnovick (298) に見つけた.Manfred Scheler に基づいた Angelika Lutz の統計から引用しているものである.General Service List (GSL; [2010-03-01-1]の記事「#308. 現代英語の最頻英単語リスト」ほか,##309,612,1103 を参照),Advanced Learners' Dictionary (ALD), Shorter Oxford English Dictionary (SOED) の3種の語彙リストを語源別に分類し,それぞれの割合を出している.表からグラフを作成してみた.
| SOED (80,096 words) | ALD (27,241 words) | GSL (3,984 words) |
West Germanic | 22.20% | 27.43% | 47.08% |
French | 28.37% | 35.89% | 38.00% |
Latin | 28.29% | 22.05% | 9.59% |
Greek | 5.32% | 1.59% | 0.25% |
Other Romance | 1.86% | 1.60% | 0.20% |
Celtic | 0.34% | 0.25% | --- |
この統計のおもしろい点は,左列から右列に向かって対象語彙が小さくなるように並べられていることだ.別の言い方をすれば,語彙の難易度が右列に向かって下がっている.語彙が基本的であればあるほど,本来語の割合が高いことは上記の過去記事でも触れてきたが,意外なことにフランス借用語についても同様の傾向が見られるという.確かに,左列から右列に向かって割合が増えているのは,赤 (West Germanic) と黄色 (French) のみである.それ以外の語種は,むしろ割合が減っている.
このことから示唆されるのは,フランス借用は,ラテン借用のように文化的で専門的であるばかりではなく,征服者が被征服者に強要した言語接触の結果として,ある程度は基本的でもあるということだ.実際,英語語彙の
三層構造 (
[2010-03-27-1]) においてフランス語は中層を担っているが,覆う範囲は3層のなかで最も広く,下層へも(そして上層へも)大きくはみ出している.フランス借用語の分布の特異性は,フランス語との接触の歴史の特徴と関連していると考えられる.
ただし,この統計には不明な点もあり,解釈には注意を要する.本来語は West Germanic という広いくくりのなかに含まれると思われるが,ある程度の数のある北欧語系借用語はどこに納まっているのだろうか.また,上の議論では,特にラテン借用語の割合に対するフランス借用語の割合が鍵を握っているが,
[2011-02-09-1]や
[2011-08-23-1]でみたように,フランス借用語とラテン借用語の区別は難しい.語源判定の不確かさをここではどう処理しているのか,判定ミスによって数値はどのくらい変動するのだろうか.直接 Lutz に当たってみる必要がある.
(後記 2012/09/04(Tue): Lutz (147) を参照したところ,上記の北欧語系借用語に関する疑問について,"Other sources of lexical influence have been left out of account here." とあった.詳細は Scheler を参照せよとのことである.)
・ Brinton, Laurel J. and Leslie K. Arnovick.
The English Language: A Linguistic History. Oxford: OUP, 2006.
・ Lutz, Angelika. "When did English Begin?"
Sounds, Words, Texts and Change. Ed. Teresa Fanego, Belén Méndez-Naya, and Elena Seoane. Amsterdam and Philadelphia: John Benjamins, 2002. 145--71.
[
|
固定リンク
|
印刷用ページ
]