hellog〜英語史ブログ

#1058. 中英語における choose の多義[sggk][semantic_change][etymology][polysemy]

2012-03-20

 現代英語の基本動詞の1つ choose は,語源辞典などを引くと非常に複雑な形態の歴史をもっていると知られるが,中英語での語義の展開のおもしろさについて言及されることは,あまりない.Sir Gawain and the Green Knight をグロッサリーを引き引き読んでいたら,choose が立て続けに予想外の語義で使われている箇所に出くわした(Andrew and Waldron 版より).

778: And he ful chauncely hatz chosen to þe chef gate,
. . . .
798: Chalk-whyt chymnées þer ches he innoȝe,


 MED "chesen (v)" の語義でいうと 8 と 9 に相当する意味である.

 8. To choose or take one's way; ~ wei (gate); proceed or go (to or from a place); refl. betake oneself; ~ fast, to hurry.
 9. (a) To perceive (sth., sb.); also, recognize; (b) to distinguish (one thing from another).


 前者は「(自らの道を)選ぶ,行く」,後者は「選別(判別,識別,弁別)する」ということになろうか.前者については,古高地ドイツ語やフランス語の対応語にも類似した語義があるという.後者については,現代英語に There is nothing to chose between A and B. (AとBの間に優劣はまったくない)という言い回しがあり,この表現での choose が 9. (b) の "distinguish (between A and B)" に近く,9. (a) の "perceive; recognize" にも通じることがわかる.ついでに,日本語を考えてみると,「子供のすることと選ぶ所がない」のように先の英語表現と近い表現がある.なお,OED では,B. 8, B. 7 の語義が上の2つの語義にそれぞれ対応しているが,いずれも近代までには廃用となっている.
 さて,choose をゲルマン祖語や印欧祖語へと遡ると,どうやら "test by tasting" (味わう,味見する)の原義にたどりつく.「味」を表わす gusto, gust などとも語源的に遠く関連している.「味の違いがわかる」=「選ぶ」と考えると,選ぶということは,生存のために必須の能力であるとともに,文化の香りすらする高尚な行為であると解釈できる.付け加えれば,elegant (上品な,優雅な)も,英語 elect (選ぶ)の源であるラテン語 ēligere (選ぶ)の現在分詞に由来し,「選択眼のある」が原義である.もっとも,選択や好みがうるさすぎると choosy となり,語感は一気に落ちる.
 現在では choose の上の2つの語義は廃れてしまったとはいえ,基本動詞の意味展開には興味深いものがある.

 ・ Andrew, Malcolm and Ronald Waldron, eds. The Poems of the Pearl Manuscript. 3rd ed. Exeter: U of Exeter P, 2002.

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