hellog〜英語史ブログ

#760. Celt の発音[pronunciation][celtic]

2011-05-27

 Celt やその派生語 Celtic の語頭子音には /k/ と /s/ の2通りの発音があり得る.日本語では民族名としての「ケルト」が定着しているが,英語では揺れが見られる.
 ケルト民族の歴史は古いが,Celt が民族名として英語に入ってきたのは案外遅く,16世紀半ばである.古代ギリシア人はゴール人 ( the Gauls ) を指して Κελτοί と呼び,古代ローマ人は Celtæ と呼んでいた.古代人は,ブリテン島にいたケルト系ブリトン人 ( the Britons ) を指すのにはこの語を使わなかったようである.
 さて,この語はフランス語へ Celte として伝えられた.フランス語ではブルターニュ ( Brittany; see [2011-05-01-1] ) のケルト人やケルト語を指していたが,かれらと系統関係にあるイギリス諸島に住まうケルト人やケルト語の一般名称としても用いられるようになった.そして,このフランス語形が近代英語期に Celt として英語に借用されたのである.英語でも当初はブルターニュのケルト人を指していたが,フランスの歴史家 Pezron の著作『古代ケルト民族・言語史』の英訳 (1706) 以降に一般名称としての「ケルト」の語義が始まっている.形容詞形 Celtic もほぼ同じ経緯である.
 問題の語頭子音の発音だが,ギリシア語やラテン語の音としては /k/ ,フランス語の音としては /s/ である.異綴字の Kelt(ic) では /k/ で発音されることは間違いないが,この異綴字はまれである.辞書では,OED では /sɛlt, kɛlt/ となっているが,現代の主要な学習者英英辞書では /kɛlt, sɛlt/ と順序が逆転している.ただし,最も伝統的ともいえる OALD8 では,/kɛlt/ しか示されていない.一方,Longman Pronunciation Dictionary によると,両子音の分布は複雑なようである.

Pronunciation of <em>Celt(ic)</em>

 言語や民族を話題にする場合には一般的な /k/ を,チーム名やスコットランド英語としては /s/ を用いると覚えておけば当面は足りそうである.Scotland は Glasgow を本拠地とするサッカークラブ Celtic Football Club は,典型的な /s/ の例ということになるだろう.

(後記 2019/07/25(Thu):柳田国男は「セルチック」と呼んでいた.鎌田 東二・鶴岡 真弓(編著) 『ケルトと日本』 角川書店,2000年.p. 22.)

Referrer (Inside): [2019-07-27-1]

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